文蔵がハジケまくりの『時そば』で爆笑させた後、仲入りを挟んで昇進披露口上へ。舞台下手から上手に向かって小せん、喬之助、文吾、文蔵、扇辰、喬太郎と並ぶ。司会は小せん。喬之助、扇辰が「かな文・文吾」時代の文蔵ネタで笑わせ、喬太郎が落語協会理事として挨拶すると、文蔵は文吾の入門時の「寄席から自転車で家に帰る自分をずっと走って追いかけてきた」エピソードを明かし、師匠(先代文蔵)と自分の関係を振り返りつつ、一人前の噺家として歩んでいく弟子への想いを語った。愛情溢れる素敵な口上だ。三本締めの音頭は喬太郎が取った。
舞台転換の後、再び高座に上がった喬太郎が演じたのは『ウルトラのつる』。古典『つる』の形式で「帰ってきたウルトラマンはどうしてウルトラマンジャックになったか」を語る、喬太郎ならではの改作だ。
ロケット団(彼らも文蔵と仲がいい)の漫才の後、いよいよトリの文吾が登場して『蒟蒻問答』を披露。これが実に堂々たる高座で、とても二ツ目になったばかりとは思えない。キレの良い口調が心地好く、登場人物を生き生きと描いて聴き手を引き込む。権助が「弔い甚句」を歌う演出は小せん譲りだろうか。
骨太の芸風で明るさもあり、将来が楽しみな二ツ目、橘家文吾。前座、二ツ目と師匠の名をもらったからには、真打昇進時には「文左衛門」を狙っている……かも!?
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2019年3月29日号