製品の品質を担保することは簡単ではない。経済成長を果たしたとはいえ、中国にはびこるニセモノが駆逐されたわけではないようだ。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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かつて中国の農薬にはニセモノが横行していた。農家の笑い話だが、一人の農家の嫁が夫婦喧嘩をして夫に殴られた。これに激した嫁は夫の前で猛毒の農薬DDWを大量に飲み込んでしまった。
慌てた夫はすぐに病院に連れて行こうと走り回るのだが、近くに病院はない。そうこうしているうちに一時間が過ぎ、二時間が過ぎ……。
時間が経っても一向に妻の様子に変化はない。ここでやっと、農薬が偽物だったと知るという話があった。これは以前の農薬事情を皮肉った笑い話だが、現在の中国でも一定の割合でDDWを飲んでも死なない可能性があるようなのだ。
3月15日、農業部(省)が発表した数字は農村に蔓延る「ニセモノ・劣悪品」の事情がまだまだ深刻であることを非常によく表していた。
2018年、コピー、劣悪商品、ニセモノといった商品を販売するなどして摘発されたケースは3878件もあったという。うち、司法の手に委ねられたケースは106件となった。こうした事件により農民が被った損失の総額は、およそ1億2500万元(約20億6250万円)に上った。
ただの白い粉を農薬だと思って散布した結果はどうだったのかはわからないが、虫を退治することはできなかったに違いない。