『不思議の五圓』とは桂米朝が掘り起こして作り直した『持参金』のこと。談志が演って東京でも広まった噺だ。米朝は持参金を20円にしたが、古い型では5円。「不思議な御縁(五円)や」でサゲたため、『不思議の五圓』と呼ばれていた。
米朝の『持参金』はよく出来た噺だが、番頭が身籠らせた女中を20円の持参金で誰かに押し付け、その20円欲しさに男が女中を嫁にするという内容が今のご時世には合わないと考えた文珍は、「女を物のように扱う番頭の心を試すために女中が『身籠った』と嘘をついた」という設定に変え、女中は嫁いだ男と仲睦まじく暮らす。サゲは「不思議な御縁やな」「いいえ、20円です」。ハッピーエンドで心地好い余韻が残る。
3席を終えた文珍は「来年3月に国立劇場大劇場(座席数1610)で20日間の独演会を行なう」と発表した。2010年には同会場で10日連続独演会を行なった文珍だが、今度はその倍。凄いことである。要注目だ。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2019年6月7日号