【著者に聞け】朝倉かすみさん/『平場の月』/光文社/1728円
【本の内容】
35年ぶりの再会は病院にある狭い売店だった。病院に胃の内視鏡検査のために訪れた青砥と、売店に勤める須藤。2人は中学校の同級生で、青砥は中学3年生のとき、須藤に告白し、振られた過去があった。須藤は青砥に言う。〈「景気づけ合いっこしない?」〉。そして50代になった2人は親密になっていくが、やがて須藤を病魔が襲う──。
いろいろわけあって独身になり、地元に帰ってきた50代の男女。偶然、再会した中学の同級生のままならない恋を描いた小説は、今年の山本周五郎賞受賞作である。
主人公は青砥(あおと)健将と須藤葉子。小説は、青砥が須藤の死を知らされるところから始まる。
「50代になって、知り合いや友達が病気で亡くなることが多くなったんですね。他人事じゃないなと思って、独身の50代の女性が病気になる恋愛小説を書いてみようと思いました」
正統派の恋愛小説だが主人公が2人とも50代というのは珍しく、読者からの反響も大きいという。
「書く前は、『50代、60代の恋愛ってどんな風に始まるんだろう、デートはどこ行くんだろう』って思いましたけど、書き始めると、『意外と若い人と変わらないもんだな』って。私がデビューしたときは、女性主人公は30代でも珍しかったですけど、これからは50代、60代の小説がどんどん出てくると思います」
2人は互いの家を行き来するようになるが、須藤が大腸がんと診断され、手術してストーマ(人工肛門)をつけることになる。青砥はずっとそばにいたいと願うが、須藤は素直に受け入れられない。
「面倒くさいですよね。須藤自身、そんな自分を持て余しているけど、どうしようもない。同世代の独身女性を見ても、同じ面倒くささを抱えていたりする。私だって、『須藤はあんまり頑固だな』と思いながら書いていました。もう少し素直に、青砥に面倒見させてやれよ、って」
狭いアパートや古い実家で暮らす、中年男女のつましい暮らしぶりもリアルで現代的だ。
「何かあったら、あっという間に収入が激減するって、どんな人でも起こりうること。まして病気になったらどんなに大変かってことも書きたかった。だいたいの年収を決めたら、住むところも生活レベルも決まるんですよ。こういう恋を書く以上、読者を泣かせられないとだめだよね、とは思ったけど、そのぶん、意識して笑うところや楽しい場面も書いています」
楽しそうに2人が笑えば笑うほど、あらかじめ知らされている恋の結末が胸に迫って切ない。
■取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2019年7月4日号