スマホのなかにはまた別の言論空間が存在する

 この段階で、「いじめ」の存在についての報道はされていない。それでも、その「匂い」を嗅ぎつけた者は、勝手に想像力を膨らまし、というか、イメージを先走らせ、事件を単純化し、かつ、刺激的なほうへと物語っていく。この事件では被害者の写真も公開されたため、次のような言葉も飛び交ってしまっていた。

〈△△△△ いかにもいじめっ子な感じ。 刺し殺されるくらいだからよっぽどな事してたんだろな〉
〈この刺された△△△△、写真見る限りじゃ発達に見えなくもないな〉

 後者のほうの「発達」は、「発達障害者」の略である。何を根拠にそのような類推し、ためらいなく差別的なもの言いをするのか。読み返すに気分が悪くなるが、この手の差別的な野次は、ネット界では珍しくない。と、わざわざ言い添えるのも野暮なほどありふれた書き込みだ。

 もちろん、もっと冷静でまともな書き込みもある。

〈所沢の中学2年生の事件……被害者の顔をバカにするような内容やいじめたのなら殺されても仕方がないというツイートみてなんだか悲しくなった。命を軽視する人がたくさんいるんだなぁと〉(誤字、筆者修正)

 ほんとうに悲しくなるよねえ、と思う。人の命が失われた悲しい事件に、無慈悲どころか悪意丸出しの言葉を投げつけて、場を殺伐とさせる連中。連中は、無責任な野次馬を気取って何かの憂さを晴らしているのだろうか。それとも反射的に感じたことを言葉にして世間に流すのが言論の自由だとでも勘違いしているのだろうか。

 どちらにしても困ったものだ。だが、しかし、こういう困った反応がネット上で起きることは、十分に予想できた。前記したように、二人の間に何らかの問題ぶくみの関係性があると最初から分かっていたのだから、のちに被害者の「非」も明らかにされる可能性は大だったのである。

 ゆえに、この事件の場合は、たとえ被害者でも匿名報道とすべきだったのだ。ネット上での殺伐とした言葉を被害者家族が目にしたらどんなにか辛いだろう。亡くなった中2生にしても、こんなふうにネットにさらされては成仏できないだろう。

 なぜ報道機関は、被害者の実名報道にこだわるのか。去年の6月4日に朝日新聞デジタルが配信した「被害者の実名、報じる意義は」という記事にこうある。

〈原因究明や責任追及も重要だが、究極の目的は安全・安心な社会の実現。同様の事件を二度と起こさないという再発防止のためだ。読者に、当事者の具体的な人物像を思い浮かべ、事件に向き合ってもらう。社会が抱える問題と自分の家族を重ね合わせる。自分の子がこんな目に遭ったら、という思いが再発防止策を考えるきっかけになり、ひいては世の中の安全・安心につながる〉

 そうだろうか。なんか自己弁護の詭弁ぽくないか?

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