〈人物像を思い描くためには「Aさん」ではなく、実名が必要だ。事件によっては顔写真や詳しい人物紹介も必要だ。それで読者が共感して問題意識が醸成され、危機意識を共有する。実名には社会や行政組織を動かす力がある。実名報道は社会のために必要だということを今後も強く訴えていきたい〉

 実名や顔写真などは、たしかに読者の感情を動かす道具になる。が、それが「共感」であるとは限らない。今回の事件のように、被害者を二次被害にあわすような言葉の暴力を引き出す材料になる可能性もある。

 同じものを書く者として、なるべく実名を使いたい気持ちはわかる。やはり、匿名よりも具体的な名前のほうがリアリティ、説得力のある文章を書けるからだ。

 ただし、実名を使う場合は、性悪説に立ってそのリスクをシビアに検討しなければならない。読者の中には善人もいれば悪人もいる。ならば、報ずる対象者が悪人からの被害をできるだけ受けないためにどう書くか、という基準で判断すべきなのだ。現行の報道機関は、あまりに性善説に寄っており、それは無責任な態度であると思えてならない。

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