監督は深作欣二だった。
「優しかったですよ。僕を見てすぐに『コイツはこういうのは初めてなんだな』と分かってくれたんでしょう。怒ることは全くなくて、何度もリハーサルしてくれたり、『ここにフレームがあって、こう顔が映るんだよ』と教えてくれたり。
監督がそうしてくださると、スタッフも『あのできない奴が──』とはならないんですよ。監督がそうなら、それについていこうということだったんじゃないですかね。
それから深作さんは最初の段階から『変に映画用の芝居とかじゃなくて、舞台でやってるように芝居してくれればいいから』と言ってくれたんですよね。それなら僕も柄本さんがやっていたのを体感していたので、やりやすかったです。他の役者さんからすると『いつもこんなテンションでやってるの』って異様だったみたいですが」
ヒロインの小夏は松坂慶子が演じている。
「松坂さんがまた腰の低い方で。こちらの方がつかさんの舞台を知っていると思って、『こんな芝居でいいですか?』と聞いてくださったこともありました。
大スターでこちらは雲の上の人と思っていましたが、芝居が終わったら無視なんてことも全然なく普通にお話しくださるし、凄く嬉しかったですね。
良い人たちに出会えましたね。おかげで、どうしたらいいかと悩むことなくやれました」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
■撮影/木村圭司
※週刊ポスト2019年7月19・26日号