当時はサンデーサイレンスの全盛時代。庭先取引では手に入らなくても、セリ落とせば自分のものになる。良質な馬が上場されるセレクトセールはイベントとしても成功した。生まれて2、3か月という仔馬が、海千山千のバイヤーの目にさらされ、品定めされていく。セリ開始前の下見では、かつて活躍した牝馬が母親になってわが子をいとし気に眺める姿も見られて心がなごむ。
これはと思って手に入れたいがために、落札価格は1000万円単位で上がっていく。1億を超え、2億を超えると、会場内が緊迫感に包まれ、ハンマーが下りた瞬間は、安堵感と大きな拍手に包まれる。競馬に勝るとも劣らないスリリングなギャンブル感に浸ることができるのだ。
落札額がずっと右肩上がりだったわけではない。1歳セールが復活した平成18(2006)年に100億円を突破したが、リーマンショックなどの影響もあり、19(2007)年から4年間は連続して前年を下回り、22(2010)年には64億円にまで落ち込むことに。この年は1億円を超えたディープインパクト産駒が1頭もいなかった。しかしリーズナブルな価格で落札された馬が認知されたこともあり、23(2011)年からは再び上昇気流に乗る。
セリの模様はグリーンチャンネルで生中継しているし、近年では旅行会社が見学ツアーを実施している。競馬新聞には、市場での落札価格が出ているのもある。セリの結果は馬券検討にとっても、重要なファクターとなったのだ。
●ひがしだ・かずみ/今年還暦。伝説の競馬雑誌「プーサン」などで数々のレポートを発表していた競馬歴40年、一口馬主歴30年、地方馬主歴20年のライター。
※週刊ポスト2019年8月9日号