石炭に限らず、地下資源には放射性物質が含まれているのが普通である。地下から湧出する温泉にもラドン温泉のような放射能温泉があるし、溶岩が固まってできた花崗岩(御影石)は建材にもよく使われているが、これも放射能をもつ。
「“地熱”の主体は、地球内部で起きている核分裂反応の熱で、地下の深いところにあるものは放射性物質を含むことが多いのです」(安井氏)
つまり、石炭灰が放射能を持つのは、「放射能汚染された日本の石炭火力発電所で燃やされたり、保管されたりしたから」ではなく、もともとの石炭に含まれているからである。もし原発事故と関連があるのなら、セシウム(Cs-134、137)が検出されるはずだが、そうした事実はない。
では、その石炭を日本はどこから入手しているのかと言えば、オーストラリアやインドネシア、カナダ、アメリカ、中国などからの輸入に頼っていて、国内では石炭はほとんど産出してない。つまり、石炭灰の放射性物質に関しては、韓国が水産物禁輸などで心配している“日本の放射能汚染”とは何の関係もないのである。
ところで、石炭灰に含まれる放射能は汚染が懸念されるほどの危険なレベルなのか。
石炭灰に関する国際原子力機関(IAEA)の安全性の基準値は、放射性カリウム(K-40)で1gあたり10ベクレル、それ以外の核種で同1ベクレルとなっている。日本産の石炭灰については、少々古い資料だが、電機事業連合会の「石炭火力発電所の石炭に関する放射線規制免除について」(2003年10月20日)によると、電力中央研究所の公表した石炭灰中濃度は、ウラン(U-238)が同0.027〜0.191ベクレル、トリウム(Th-232)が同0.014〜0.181ベクレルだという。ものによって10倍くらいの差があるが、最大であってもIAEA基準値の5分の1以下である。カリウム(K-40)については、炉内で燃えて灰にはほとんど残らないとされている。
ただ、IAEA基準値は強制ではなく、各国が独自に基準値を決めているので、いくらでも厳しくすることは可能だ。韓国政府がどのような規制を予定しているのかまだはっきりしていないが、全量検査に加え、基準も大幅に厳しくすれば、日本産の石炭灰を“基準値オーバー”としてハネることは可能である。日本以外の国からは輸入していないから、まるで日本産の石炭灰だけが放射能汚染されているかのように“見せかける”ことすらできる。