高倉健と長嶋茂雄に挟まれる吉野ママ
先生と初めて会った時、見た目がタイプじゃないから正直興味がなかったの(笑い)。小説家って知らなかったし、当時はまだ新人だったからね。でも毎晩、お店で顔を突き合わせて喋っているうちに親しくなって、『仮面の告白』(1949年刊)っていう作品を書いているって聞いて、あぁ小説家なんだって思ったのよ。
先生って豪快で、独特な笑い方をするの。お酒を飲んでは「ガハハハ!」って笑って、私たちのバカ話を楽しんでいたわ。
その後『禁色』が出たときに読んでみたら「ブランスウィック」の店内や私たちのことが事細かに描写されているじゃない。通っていたのは遊ぶためだけじゃなく、取材のためでもあったのね。
せっかく本にサインしてくれたんだけど、本好きなうちの店の女の子が借りていってそのままよ。
〈「ブランスウィック」で日本最初のゲイバー・新橋「やなぎ」のママにスカウトされた吉野ママは「やなぎ」で修業を積んだ後独立し、1960年頃に数寄屋橋に「ボンヌール」を開店する。三島は、様々な業界の客を伴って来店した。
三島が連れてきた客の中には、『禁色』の主人公・悠一のモデルとなった「ユウちゃん」もいた。作中で悠一は、三島本人をモデルとする鏑木信孝元伯爵と恋に落ちる〉