禁足の地「オソロシドコロ」(筆者撮影)
「オソロシドコロ」は、昼でも太陽光の届かない暗い森の奥にあり、最近まで限られた神官しか立ち入りを許されなかった。現在も島民は立ち入りをできる限り控えている聖域なので、大声を出したりはしゃいだりするのは厳禁である。
対馬にはこれら以外にも、山幸彦の妻となったトヨタマヒメや神功皇后ゆかりの神社、白村江の戦いの直後に築かれた朝鮮式山城の金田城跡、対馬藩主宗氏の墓所、日露戦争ゆかりの地など、見どころが豊富だ。
対馬グルメも見逃せない。年間を通じて何かしら「旬」の海の幸があり、「いりやき」という寄せ鍋や、山海の幸を使った石焼料理、「ろくべえ」というサツマイモ製の麺料理、「対馬とんちゃん」という漬けタレ焼肉など、美味しいものがたくさんあって焼酎も充実している。
これだけの魅力に富み、対馬物産観光協会のホームページも非常に情報量が多いのに、それでも日本人観光客の呼び込みがうまくいっていないのは、より多くの日本人にそれを見てもらう努力に欠けていたからだろう。
観光業に直接携わる人を除いては、危機感が薄すぎるのである。九州北部と朝鮮半島を結ぶ交易を命綱としていた明治以前の歴史を今一度見つめ直し、じり貧で構わないという思考を捨てる。まずはそこからスタートすべきだろう。
【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。著書に『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)、『いっきに読める史記』(PHPエディターズ・グループ)など多数。