現在のブレグジット支持派は、こうした「栄光ある孤立」下の「繁栄の時代」を念頭に置いているのだろうか。だとしたら、それはとんでもない思い違いである。当時と現在では前提条件が違いすぎる。
まず一つには世界最強通貨の地位は米ドルに取って変わられ、英ポンドに往年の力はない。第二にはインド亜大陸をはじめ、大半の植民地が独立して、半植民地であった国々も主権国家に変じている現状では、何事もイギリスの望む通りに事が運ぶはずはない。
合意なき離脱の先に待つのは、「ヨーロッパの孤児」として、かつて植民地であった米国への経済的依存を強いられるだけだろう。ブレグジット支持派は、すでに多くの企業が拠点をEU加盟の他国に移転させている現実と、あらゆる物価の上昇という目前の打撃を真摯にとらえ、合意なき離脱について再考すべきであろう。今ならまだ間に合うのだから。
【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。著書に『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)、『いっきに読める史記』(PHPエディターズ・グループ)など多数。