芸能

MJ「ネバーランド」考 歪んだ情念から生み出された磁場

危ういと分かっても行きたいネバーランド(イラスト/ヨシムラヒロム)

危ういと分かっても行きたいネバーランド(イラスト/ヨシムラヒロム)

 不世出の世界的スターだったマイケル・ジャクソンが創った自宅「ネバーランド」は、建設当時の約30年前から人々の興味と関心を集めてきた。観覧車などの巨大遊具、鉄道、動物園、映画館に湖など、私有地で自宅なのに巨大テーマパークだと噂されてきた。そこでかつて起きた出来事を証言者の言葉で検証するドキュメンタリー作品『ネバーランドにさよならを』(Netflix)は、映画祭での初公開時から、センセーショナルな証言内容に興味があつまりがちだった。しかし、イラストレーターでコラムニストのヨシムラヒロム氏は、ネバーランドの魅力が伝えられたことから、マイケルと少年の心についてばかり考えている。

 * * *
 今からちょうど2年前、Netflixの会員になった。映画、ドラマ、アニメといった動画を楽しみつつ、最も夢中になったのが海外のドキュメンタリー作品。自分の想像を優に超えてくる事実に「コレ、本当の話かよ!」と思わず声も漏れる。特に人のエゴから生まれた事件について言及する作品にハマった。畏怖、疑問、愉快といった感情が一気に湧き、最後には困惑する。なかでも、マイケル・ジャクソンの闇を映した『ネバーランドにさよならを』の衝撃は格別だった。鑑賞後、心の整理がつかない作品だった。

 物語の中心となる語り手は、子供時代にマイケルに性的虐待を受けたと主張する男性2人。彼らがマイケルと出会い、交流を深め、その結果何が起きたのかについて語る。

 彼らの証言から構成される本作だけで、マイケルが本当は何をしたのかを見極めるのは難しい。ただ、世界一のスーパースターが変人だったことに間違いはない。それは、4時間を超える『ネバーランドにさよならを』で最も多くの時間を割いて描かれている、30歳を超えた男性と当時小学生だった彼らのいびつな友情について。ある期間において、少年たちとマイケルは親友と呼べる関係性を結んでいった様子がうかがえる。それが、片側からの一方的な証言ばかりだということを差し引いても、彼らがある期間をともに暮らし、それ以外の場所でも友人としてマイケルとともにいたことは事実だろう。

 そして、奇妙な仲を熟成させた場所こそマイケルの邸宅「ネバーランド」である。本作において、キング・オブ・ポップの狂気を体現した城の存在感は大きい。事件性よりも「ネバーランド」自体に目がいく人も多いことだろう。動画と写真で紹介される城、その全てが怖いのである。

「ネバーランド」の由来は『ピーター・パン』に登場する架空の島からとられている。物語において島の住人は年を重ねることはない。子供なら子供のまま「永遠の子供」として生きることができる。その子供たちを束ねるリーダーこそ我らがピーター・パン。ちなみに、ネバーランドに集まっている永遠の子どもたちは、親とはぐれた過去を持つ子ばかりだ。

 1987年、マイケルはカリフォルニア州の郊外に千代田区とほぼ同じ大きさの土地を購入した。周りに建物が一切ない場所に「ネバーランド」は建築された。

 同じ時期、証言男性2人は子役タレントとして活動しているなかで運命としかいいようのない人に邂逅した。スーパースターにも関わらず、誰よりもフレンドリーなマイケル。出会って日も浅いのに、自らの口で彼らに「君に会いたいんだ」と伝え、家族とともに「ネバーランド」へと招く。拓けた荒野を走る車中、マイケルは「ネバーランドまであと20分!」「あと10分!」とカウントダウンを始めたという。

「ネバーランド」の城門をくぐった感想を、かつて子役だった男性は「(あまりの美しさから)別の惑星に来たのかと思った。他の豪邸とはレベルが違うんだよ」と話す。

 入城した瞬間にマイケルが耳元で囁く。

「ここは君のために作ったんだ……」

 夢の城で日がな一日マイケルと遊ぶ日々はこうして始まった。

関連記事

トピックス

“令和の小泉劇場”が始まった
小泉進次郎農相、父・純一郎氏の郵政民営化を彷彿とさせる手腕 農水族や農協という抵抗勢力と対立しながら国民にアピール、石破内閣のコメ無策を批判していた野党を蚊帳の外に
週刊ポスト
緻密な計画で爆弾を郵送、
《結婚から5日後の惨劇》元校長が“結婚祝い”に爆弾を郵送し新郎が死亡 仰天の動機は「校長の座を奪われたことへの恨み」 インドで起きた凶悪事件で判決
NEWSポストセブン
6月2日、新たに殺人と殺人未遂容疑がかけられた八田與一容疑者(28)
《別府ひき逃げ》重要指名手配犯・八田與一容疑者の親族が“沈黙の10秒間”の後に語ったこと…死亡した大学生の親は「私たちの戦いは終わりません」とコメント
NEWSポストセブン
「最後のインタビュー」に応じた西内まりや(時事通信)
【独占インタビュー】西内まりや(31)が語った“電撃引退の理由”と“事務所退所の真相”「この仕事をしてきてよかったと、最後に思えました」
NEWSポストセブン
伊勢ヶ濱部屋に転籍した元白鵬・宮城野親方
【元横綱・白鵬が退職後に目指す世界戦略】「ドラフト会議がない新弟子スカウト」で築いたパイプを活かす構想か 大の里、伯桜鵬、尊富士も出場経験ある「白鵬杯」の行方は
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
「日本人ポップスターとの子供がいる」との報道もあったイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
イーロン・マスク氏に「日本人ポップスターとの子供がいる」報道も相手が公表しない理由 “口止め料”として「巨額の養育費が支払われている」との情報も
週刊ポスト
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
《会社の暗部が暴露される…》フジテレビが恐れる処分された編成幹部B氏の“暴走” 「法廷での言葉」にも懸念
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト
 6月3日に亡くなった「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄さん(時事通信フォト)
【追悼・長嶋茂雄さん】交際40日で婚約の“超スピード婚”も「ミスターらしい」 多くの国民が支持した「日本人が憧れる家族像」としての長嶋家 
女性セブン
母・佳代さんと小室圭さん
《眞子さん出産》“一卵性母子”と呼ばれた小室圭さんの母・佳代さんが「初孫を抱く日」 知人は「ふたりは一定の距離を保って接している」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《レーサム創業者が“薬物付け性パーティー”で逮捕》沈黙を破った奥本美穂容疑者が〈今世終了港区BBA〉〈留置所最高〉自虐ネタでインフルエンサー化
NEWSポストセブン