“伝説の日本代表センター”横井章氏(78)。取材は5時間を超えた(筆者撮影)
情に流されず、冷静で客観的な視線を持つ横井氏はめったに人を褒めない。それでも今回のジャパンの偉業については「素晴らしいことや」と相好を崩す。
「ジャパンは51年前と同じ前に出るディフェンスをやり続けて相手の突進を阻止した。勝利確実とみられたアイルランドは、試合開始から前へ出てはつなぐ多フェイズ攻撃でボールを保持しながら、前半で12点しか取れなかったことが最大の誤算。後半の後半で相手は完全にへばったが、ジャパンは前へ出るディフェンスと素早く細かく展開するアタックを繰り返し、“ここぞ”という場面でトライに結びつけた。ホンマ大したもんや」(横井氏)
1970年から5年連続で日本代表の主将を務めた後に現役引退して社業に専念した横井氏は、2000年に現場復帰して全国の高校や大学でラグビーの指導や助言を始めた。これまでに帝京大、関西学院大、京都成章高、御所実業、尾道高といった名だたる強豪校が横井氏のコーチングで力をつけた。
それだけの実績を誇る横井氏は、確固たるラグビー理論の持ち主だ。指導も「ガツンと当たってグワーッと走る」という感覚的な教え方ではなく、「ラグビーはサイエンス」との信念に基づき、理に適った身体の使い方や具体的な戦術、戦略を関西弁で熱く語る。今回の取材でも、記者に説いた「横井先生のラグビー教室」はあっという間に5時間を超えた。
現在、ジャパンの奮闘で日本には“にわかファン”が急増している。そんな人々に横井氏が何よりも伝えたいのは、「ラグビーは心と身体が連動するスポーツ」であることだ。5日夜にサモアと戦う日本代表には、こうアドバイスとエールを送る。
「試合中に『勝てるぞ』『行けるぞ』という気持ちになれば、身体が0コンマ何秒早く動き、数センチでも早く前に出られる。ギリギリのところで勝負を分けるのは、そのコンマ何秒や数センチの動きなんや。
そのためにも大事なのはゲームの入り方。キックオフを深めに蹴り込んでバチコーンと相手にタックルを決めたり、思い切りテンポよく回して相手に後手を踏ませれば、味方は“よし行けるぞ”となって、心と身体が連動してチームに勢いが出る。これからのジャパンの試合も、序盤でそうした状況をいかにつくるかがカギになるやろうな」