ディズニーアニメ『眠れる森の美女』の悪役マレフィセントを主役にした実写映画『マレフィセント2』が好調だ。国内および世界の興行収入で『ジョーカー』と首位を争っている。歴史作家の島崎晋氏は「この物語のモチーフはギリシア神話まで遡ることができる」という。
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アンジェリーナ・ジョリー主演のダークファンタジー映画『マレフィセント2』が10月18日に公開となった。前作(2014年)同様、1959年公開のディズニー長編アニメ映画『眠れる森の美女』をもとにした作品で、そのルーツとしては、1812年に初版第1巻が刊行された『グリム童話集』の中の「いばら姫」(または「野ばら姫」)や、フランスの詩人シャルル・ペローが民間伝承をまとめ1697年に刊行した『ペロー童話集』の中の「眠れる森の美女」が知られている。
「いばら姫」のおおまかなストーリーを紹介すると、ある国で王女誕生を祝う宴会に魔女たち(岩波文庫『完訳グリム童話集』では〈神通力をもった女たち〉)を招待したところ、魔女は13人いるのに金製の皿は12枚しか用意されていなかった。そのため王女は招かなかった13人目の魔女に呪いをかけられ、15歳のときに眠りについたきり一向に目を覚まさない。100年後、他国の王子がいばらで覆われた城内に入り、王女にキスとしたところ、彼女は目覚め、二人は結ばれるという話である。
一方、ペローのほうでは、魔女ではなく仙女(または妖女)が8人で、招かれたのは7人、足りなかったのは金製の皿ではなく金の箱入り食器となっており、王子のキスはなく、100年後の王子の到来で自然に目覚める内容になっている。
両作品に共通する「一人分足りない」という設定は、意識的に特定の一人を排除していたわけで、類似の話はギリシア神話にも見受けられる。かの有名なトロイア戦争の発端となる話である。
トロイア王子パリスに連れ去られたスパルタ王妃ヘレネを奪還すべく戦争が始まったのは、海の女神テティスの婚礼の宴に“一人だけ招待されなかった”不和と争いの女神エリスが、祝いの席に水を差してやろうと投げ入れた黄金のリンゴが、そもそものきっかけだった。