国内

92才の現役保育士 目指すのはスゴイ人を育てることではない

92才の現役保育士・大川繁子さん(撮影/楠聖子)

 栃木県足利市に“奇跡の保育園”と呼ばれる認可保育所がある。その名も「小俣幼児生活団」。園児は、自ら考え決断できる、自立した子供に育つと評判で、入園希望者が絶えない。その保育方針とは?

◆やりたいことを好きなだけさせる

 栃木県足利市。小俣駅周辺に広がるのどかな田園地帯に「小俣幼児生活団」はある。

 木造の門を開けると、嘉永4(1851)年に建てられた国登録有形文化財の古民家がたたずみ、そこを園児たちが走り回る。3000坪以上ある敷地内には、池や丘、梅林が広がり、保育士が見守る中、ある子は裏山を走り回り、またある子は園舎で折り紙に没頭するなど、皆が思い思いに過ごしている。カリキュラムごとに園児を管理する一般的な保育園とは違う光景が、ここにはある。

「当園の方針は、『ほったらかし保育』。何時に来てもいいし何時に帰ってもいいの。来たら好きなことをして遊ばせて、お昼寝もしたくないならしなくていい。給食もお腹が空いた時に食べればいいの」

 微笑みながらこう話すのは、92才ながら同園で主任保育士として働く大川繁子さんだ(「」内、以下同)。

「子供にはやりたいことに没頭させる。その経験は、大人になってからも何かをやり遂げるための力になります。そもそも、鉄棒に夢中な時に、無理に中断させても、ほかのことに集中できませんからね」

 もちろん、全てが自由というわけではなく、ルールや年間行事はある。ただ、それらのアイディアを提案したり、作ったりするのも子供たちだ。

「例えば、当園の敷地内には『マリアの丘』と呼ばれる小山があります。以前は、立ち入り禁止にしていましたが、“守ることだけが教育ではない”と考え、年長の園児たちとルールを作ることに。皆で危険な場所を確認し、“ここは入らない”などの約束を地図に書き込みました。子供は自分たちで決めたことはちゃんと守るんですよ」

 ここでは、子供のやりたいことが優先されるので、いわゆる“授業”もない。そうなると、小学校入学後、すでに幼稚園やほかの保育園で文字などを学んできた子供たちより出遅れるのではないかと不安になりそうだが、保護者からは、

「やりたいことが見つかるとグンと成績が伸びたんです」

 という声が続々と届くという。つまり、ここで培われた集中力で出遅れた部分を取り戻していくのだとか。

「私たちが目指すのは、スゴイ人を育てるのではなく、個性を発揮できる保育。そのために大切なのは子供を否定しないことだと思っています」

 そんな大川さんの60年におよぶ保育人生で学んできたことをアドバイスしてもらった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

映画『アンダンテ~稲の旋律~』の完成披露試写会に出席した秋本(写真は2009年。Aflo)
秋本奈緒美、15才年下夫と別居も「すごく仲よくやっています」 夫は「もうわざわざ一緒に住むことはないかも」
女性セブン
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
女性セブン
日本初となる薬局で買える大正製薬の内臓脂肪減少薬「アライ」
日本上陸の内臓脂肪減少薬「アライ」 脂肪分解酵素の働きを抑制、摂取した脂肪の約25%が体内に吸収されず、代わりに体内の脂肪を消費
週刊ポスト
専修大サッカー部を辞任していた源平監督(アフロスポーツ)
《「障害者かと思った」と暴言か》専修大サッカー部監督がパワハラ・経理不正疑惑で辞任していた 大学は「警察に相談している」と回答
NEWSポストセブン
日本人パートナーがフランスの有名雑誌『Le Point』で悲痛な告白(写真/アフロ)
【300億円の財産はどうなるのか】アラン・ドロンのお家騒動「子供たちが日本人パートナーを告発」「子供たちは“仲間割れ”」のカオス状態 仏国民は高い関心
女性セブン
【悠仁さまの大学進学】有力候補の筑波大学に“黄信号”、地元警察が警備に不安 ご本人、秋篠宮ご夫妻、県警との間で「三つ巴の戦い」
【悠仁さまの大学進学】有力候補の筑波大学に“黄信号”、地元警察が警備に不安 ご本人、秋篠宮ご夫妻、県警との間で「三つ巴の戦い」
女性セブン
日本製鉄によるUSスチールの買収計画
【日本製鉄のUSスチール買収問題】バイデンもトランプも否定的だが「選挙中の発言に一喜一憂すべきではない」元経産官僚が読み解く
NEWSポストセブン
《視聴者は好意的な評価》『ちびまる子ちゃん』『サンモニ』『笑点』…長寿番組の交代はなぜスムーズに受け入れられたのか?成否の鍵を握る“色”
《視聴者は好意的な評価》『ちびまる子ちゃん』『サンモニ』『笑点』…長寿番組の交代はなぜスムーズに受け入れられたのか?成否の鍵を握る“色”
NEWSポストセブン
バドミントンの大会に出場されていた悠仁さま(写真/宮内庁提供)
《部活動に奮闘》悠仁さま、高校のバドミントン大会にご出場 黒ジャージー、黒スニーカーのスポーティーなお姿
女性セブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
今年1月から番組に復帰した神田正輝(事務所SNS より)
「本人が絶対話さない病状」激やせ復帰の神田正輝、『旅サラダ』番組存続の今後とスタッフが驚愕した“神田の変化”
NEWSポストセブン
わいせつな行為をしたとして罪に問われた牛見豊被告
《恐怖の第二診察室》心の病を抱える女性の局部に繰り返し異物を挿入、弄び続けたわいせつ精神科医のトンデモ言い分 【横浜地裁で初公判】
NEWSポストセブン