三席目はムキになる二人の隠居が実に微笑ましい『笠碁』。仲のいい男同士のツンデレな会話を描かせたら一之輔の右に出る者はいない。仲直りする場面の二人の嬉しそうなこと! 「八歳の時に雨の中で待ってた」というエピソードを活かした独自のサゲも“友情”というテーマに直結して心に沁みる。
〈第三夜〉一席目は隠居の甚兵衛さん愛が止まらない爆笑編『加賀の千代』。お清さんまで甚兵衛さん愛を発揮して隠居も大喜び。
二席目『夢見の八兵衛』は東京では柳家一琴の十八番だが一之輔も完全に自分のものにした。煮しめを食べるときの「ニンジン甘い♪」「ハス嫌い!」が妙に可笑しくて好きだ。首吊りの形相の物凄さ、化け猫の可愛さは一之輔ならでは。
三席目は「二夜」でネタ下ろしした『百年目』。花見の晩に「番頭の子供の頃の思い出を夫婦で夜通し語っていて眠れなかった」という旦那の描き方が魅力的。番頭に語りかける「今度は二人で花見に行きましょう」は素敵な台詞だ。(四夜以下次号)
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2019年11月29日号