もう1つは、私が20代半ばの時。近所に5才の女の子が住んでいた。親子ほど年が違うけど…相性が悪かったのね。私が持っていたお菓子を「ちょうだい」と言いながら、その子がスッとかっさらった瞬間、私は無言で小さな手の甲をつねっていた。
「叩いてもいいけど、つねられると根性が悪くなるから、しないでね」
どこかで見ていたのね…その子の母親にそう言われたの。叩くと音がして周囲にバレるからつねったんだけど、その時、初めて自分のしたことを恥じた。
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殴られて育った子が、殴る大人になる、というけど、それはホントだと思う。
私は物心ついた時から母親のゲンコツをくらってきた。
「自分で産んだ子供を煮て食おうが焼いて食おうが親の勝手だ」と、何度言われたか。
小さいうちはそれを真に受けて、母親を恐れていたけれど、小6で身長が逆転してからは、口答えが激しくなった。
あれは中学2年生の時。母親が何かで私を怒ってゲンコツをくれた。頭に来た私は、台所から包丁を持ち出して、「殺れよ、ホラ。そんなに憎いなら殺れ」と、母親の前に包丁を投げ出したのよね。
それきり母は私に手を上げなくなった。そして親と子というより、女同士に近い関係になった。
どれだけ本気で自分を叱っているのか、子供はわかる。ただ怒っているだけなのもわかるし、外でうまくいかないから、弱い自分に八つ当たりしていれば、それもわかる。わかりながらも、親の気を引きたくて怒らせることをするのが子供なのよ。他人の物を盗んだ時に罰で尻を叩かれても仕方がないと思っているって。
最近ニュースになっている親の体罰、虐待がただ事ではないのは、「しつけ」を隠れ蓑にしているからよ。
義理の父親が年端もいかない子に「お前のためだ」と制裁を加えて、命まで奪うって、どう考えても異常でしょ。そんな異常な事件を引き合いに出しながら体罰のガイドラインを作ってるんだから、こんなの真に受けなくてもいいんじゃない? どうかしてるよ、厚労省。
※女性セブン2020年1月1日号