也映子は8歳年下の理人との間に恋愛感情が生まれてきても、尻込みしてしまう。サードプレイスのゆるい人間関係、その居心地の良さを失うのが怖かったから。「恋愛」とは密度の濃すぎる関係であり、傷つけあうリスクもあるから。しかし、すかさず幸恵が言う。
「本当に大事な人とはゆるくて優しい世界のその先に行かなきゃ、深くはつながれないんじゃないかな」
傷つきたくない也映子の「逃げ」に対して、理人も立ち向かっていく。「あなたのためなら何とかするから、全部」と也映子を抱きしめ“エレベーターキス”するシーンは大反響を呼び、中川大志さんの透明感に視聴者の胸はキュンとなりました。最終回は恋愛成就のカタルシスに満ちていました。
でも、それ以上に印象深かったのは、このセリフではないでしょうか。
「私たちが二度と会わなくなっても、それはそれでいいのよ」と言う幸恵の言葉です。
「20年後も50年後も、也映子ちゃんと理人くんとはきっとまた笑って話せる気がする。そんな風に思える関係ができたってだけで、もう十分じゃない?」
まさしく、精神のサードプレイスを手に入れた人の言葉でした。
定型の恋愛ドラマとはひと味違ったのはなぜか。恋の成就へとぐいぐい進む展開とはちょっと異なる印象を残したのは、このセリフが象徴しているように、2人の恋愛と等しいほどに「幸恵のドラマ」でもあったからではないでしょうか。
『G線上のあなたと私』に「癒された」「ほっとした」「ロスになってしまう」という感想がたくさん聞かれたのは、「バイオリンのお稽古場」に疑似参加し、浄化された視聴者がいかに多かったか、という証なのかもしれません。でも、ドラマは終わりました。次は自分のサードプレイスを見つけること。そこから一歩が始まる、とこのドラマは示唆しているよう感じます。