弱者が悪者に取り込まれ、骨の髄まで…ではないが、更なる苦悩を背負わされるという、なんとも救いのない話。無論悪いのは騙した方だが、この場合だと騙された方も違法な金貸しだと分かっていて利用していたことになるので、落ち度がないわけではない。しかし、だまされた被害者の中には、小学6年生の児童まで含まれていたことを考えると、手段の容易さのために被害が拡大していることに思いをはせないわけにはいかない。駅の裏通りの雑居ビルにあるようなヤミ金に小学生が金を借りに行くことはあり得ないし、おそらく貸す業者もいないだろうが、ネットの個人間融資詐欺では相手が子供でも餌食にするのだ。そう考えると、やはり、違法な貸主として詐欺を働いた者の罪はより重いと言わざるを得ない。
大半の被害者は、だまされた時点で我に帰るはずだ。しかし、今回逮捕された容疑者のように「やられたら、同じ事をして他から取り返す」となってしまうのはなぜなのか。被害者が加害者へと堕ちるのはなぜなのか、と考え込んでいると、19歳女性のニュースが報じられた翌日、似たような事件が起きてしまった。
「ネット上で人気アイドルのライブチケットを売るといって、金だけをだまし取った女が逮捕されました。実はチケットを巡る詐欺は事件にならないだけでかなり発生しています。しかも、一度騙された被害者が詐欺を働く側に回ってしまう事例が多い」(大手紙社会部記者)
理由は個人間融資詐欺と同様である。「やられたら、同じ事をして他から取り返す」という歪んだ理屈だ。
そもそもコンサートのチケットは転売が禁止されている場合が多い。禁止されている行為を犯してでもコンサートへ行きたい、というファン心理の隙に、詐欺師がつけこむ図式である。コンサートチケットを手に入れられず、金だけ奪われた被害者は、騙されたと分かってすぐは被害の告発を試みるが、やはり後ろめたさから司法にも業者にも、被害を訴えにくい。その体験から被害者は、チケット詐欺は捕まらない、逮捕されないと思い込んでしまうらしい。
個人間融資詐欺もチケット詐欺も、被害者のほとんどが社会の仕組みをまだよく知らない学生や若者である。世間知らずな浅慮から、バレなければ奪う側に回る方が良い、といった愚かな考えに抗えなくなる人だっているだろう。
本来であれば、金額の多寡ではなく、犯罪は犯罪として取り締まられるべきなのが、法治国家である我が国の理想である。しかし、犯罪者はいつも心の隙を狙う。被害者のミスにつけ込み、徹底的に搾取にかかる。相手が泣き寝入りする可能性が高ければ高いほど犯罪は隠蔽されやすく、ビジネスとしておいしいのだ。
一時の欲望や誘惑に惑わされることなく、ダメなことはダメだという、至極あたりまえの意識を失ってはならない。騙されたら、自分も騙して取り返すという人ばかりになったら、この社会は崩壊するしかないのだから。