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【嵐山光三郎氏書評】時代の語り部による活劇青春小説最新作

「新 青春の門 第九部 漂流篇」

 年末年始はゆっくり腰を据えて本を読む絶好の機会。2020年は果たしてどんな年になるのか? 作家の嵐山光三郎氏が選んだ2020年を読み解く1冊は、『新 青春の門 第九部 漂流篇』だ。

●『新 青春の門 第九部 漂流篇』/五木寛之・著/講談社/1800円+税

 ボディーをキックしてくる活劇青春小説。貧しい時代に光明がさし、ココロザシがある。泣けますよ。主人公のイブーキ(伊吹信介)はパスポートを持たずソ連へ入国し、謎の日本人医師に助けられて身を隠す。シベリア、イルクーツク、そしてバイカル湖の底に沈むロマノフ家の金塊。自動小銃カラシニコフ、四輪駆動車のワズ(UAZ)、ドクトルの愛人タチアナの豊満な肉体。と、道具だてが揃っている。

 伊吹の昔なじみの歌手オリエは「筑豊の川筋者や」とチンピラやくざに啖呵を切る。オリエについた高円寺竜三という音楽ディレクターは缶入りピース(ピー缶)を手に持ち、黒いタートルネックのセーターに革ジャンで、ハンティングをかぶっている。こういう人いましたよね。いずれも一九六〇年代をカッポしていた異能の人ばかりでなつかしい。

 興行師の神彰らしき人とその片腕。東条内閣に抗して割腹自殺をとげた中野正剛。ファンキージャズのピアニスト、ホーレス・シルバー、福岡中洲の高級クラブ「みつばち」、となつかしい人や店が出てくる。

 渋谷のバーでは、トリスのハイボールが一杯50円。山口瞳のコピー「トリスを飲んでハワイへ行こう!」。町にはドドンパが流れ、デモでは「インターナショナル」、町では「王将」と「スーダラ節」。うたごえ酒場で「ともしび」。

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