2017年の流行語大賞「インスタ映え」が象徴するように、写真SNSのInstagramは、誰もが写真うつりを美しくするために努力を惜しまないという行動を助長した。それは、自分の見た目についても同様で、女性だけではなく男性も見た目を整えることへ関心を持つようになった。
でも、自撮り写真は加工アプリでごまかしているんでしょう? と懐疑的に思う人もいるだろう。しかし、加工アプリだけでは満足できないというのが昨今の本音だ。
「インスタで見せていた写真と実物とのギャップをなるべく埋めたいという意識が働いて、そのために肌色を整えるメイクに男性も乗り出すことへ抵抗が薄くなったようです。また、加工写真をプロフィールとして登録するのを禁止する動きがマッチングアプリで広まっている影響も感じています」(前出・手塚氏)
世の中の変化など様々な後押しを得たからなのか、イケメン製作所への来店者数は「この一年ぐらいは月に2000人ほど、週末になると1日で120人ぐらい」(前出・手塚氏)で、関東近辺だけでなく全国からやってくるのだという。取材に訪れた日はクリスマスの直前だったが、平日にもかかわらず週末と同じくらいの予約がすでに入っていた。一年のうち問い合わせと来店が増えるのは、大学生が就職活動準備を始める2、3月と、新社会人が仕事を始めたあとの5、6月。20代~30代前半のビジネスマンが中心だが、実はアラフォー以上のリピーターも少なくないのだという。
「たとえば、大事なプレゼンや講演を控えた日に、身だしなみを整えるためにいらっしゃるエグゼクティブのお客様です。そういったお客様は、年に数回、重要なイベントの直前に利用するリピーターとして、長いお付き合いをさせていただいています。私自身、アメリカで仕事をしていたとき、仕事ができる人ほど大事なプレゼンの前には必ず、サロンなどへ行ってバッチリと整える姿を見てきました。日本でも、同じように考える管理職の方が増えてきたのだと思います」(前出・手塚氏)
来店者のほとんどが、「メイクしているとわからない整え方」を希望しているのも、メンズメイクならではの特徴だろう。
「お客様とは、どんな顔が理想で、どのような印象を持たれたいと思っているのかについてじっくりカウンセリングし、それに合った眉や肌の整え方を決めていきます。サロンでしかできないメイクを提案するのではなく、自宅で10~15分ほどでできる内容をおすすめしています。どの方も、メイクまで仕上げて鏡で自分の顔を見ると、少しびっくりしてから、とてもいい顔をなさいます。その時の顔は、皆さんイケメンです」(前出・手塚氏)
前出の資生堂の調査によれば、BBクリーム塗布やアイブロウで眉を整えるといったメンズメイクをしたことがない男性のうち、メイクをしてみたいと「思う」25.3%、「すごく思う」26.2%、「機会があったらしてみたい」35.3%で約9割の人がメイクをしてみたいと考えていることがわかった。「カワイイはつくれる」というキャッチコピーの女性向けCMが話題になったのは2006年のこと。2020年は、「イケメンはつくれる」も同じように宣言されるのかもしれない。