シェフのレシピノートは数字と矢印が多用されている(写真は山田さんの著書『日本一おいしい病院レストランの野菜たっぷり長生きレシピ』より。撮影/泉健太)

 そう苦笑する山田さんが行きたかったのは「数学科」だ。意外な気もするが、昨年11月に一冊にまとめられた山田さんのレシピ本『日本一おいしい病院レストランの野菜たっぷり長生きレシピ』を見ると、うなずける。

 書籍の中で、山田さんの「レシピ考案ノート」の一部が公開されており、これが数字と矢印ばかり。言葉で説明しなくても、何と何をどのタイミングで合わせればいいか、手順が一目瞭然になっている。そしてさらに、このレシピにはもう1つ、普段はあまり見かけない表記がある。これには担当編集者が頭を抱えたという。

「例えば『チョコレートブラウニー』。《ベイキングパウダー…0.3g(目安として小さじ約1/16)》という、非常に細かい指示があります。“ひとつまみ”や“少々”に言い換えるか、もう少し簡略化できないものかと山田シェフと話し合ったのですが、どうしても“これでいきたい”と譲ってくれませんでした(笑い)。数学者的なこだわりを垣間見た気がします」(担当編集者)

 山田さん本人も、数学と料理の共通点を感じていると話す。

「数学は、ひと言でいうと“手順と理屈”。考えながら組み立てていくおもしろさは、料理に似ているような気がしています」(山田さん・以下同)

 そんな理数系の山田さんが、天下の東大を蹴ってまで、料理の道を選んだのはなぜなのか。

「高校の頃から、働くなら“自分にとっての天職”に就きたいと思っていました。たくさんお金を稼げるとか、有名になれるとかではなくて、自分の本当にやりたいことを職業にしたかったんです。

 数学は好きでしたが、大学で学者や研究者の家庭出身の友人たちと出会ってみると、“どうやら自分には彼らほどの数学の能力はない”と気がついてしまった。ここで数学を学んでも、将来の自分にできることは、せいぜい“わかりやすい数学の教科書を書くこと”くらいだな、と思ったんです。数学は、自分が生涯をかけて取り組みたい仕事ではないんだと思い至りました」

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