そんなふうに自分の気持ちを理解し始めていた大学生の山田さんは、ひとり暮らしを始めたことで、また料理に向き合いつつあった。
「大学時代、炊飯器でお米と一緒にさつまいもを入れたことがあるんです。それは新しい料理を作ろうと思ったのではなくて、“一緒に入れたら、さつまいもを煮る手間が省けるかもしれない”と思ったから。やってみたら、ご飯はいつも通りおいしく炊けているし、さつまいもはホクホクになっていて、“これは成功だぞ”と」
実はこの頃、同級生から「ボート部の人手が足りないから」とかり出され、そのまま入部していたという。勉学に部活にと、時間はいくらあっても足りない。そこで編み出したのが、“炊飯器時短料理”というわけだ。
「炊飯器ってよく考えると、蒸し器の1つなんですよね。そのことに気づいてから、鶏肉とキャベツを入れて蒸し焼きにしてみたりと、いろいろと試して楽しんでいました。スイッチを押して放っておけるのも助かります」
実際、件のレシピ本には、炊飯器で作るメニューが多数掲載されている。
山田さんの手にかかれば、時間のかかる「ロールキャベツ」や「豚バラ大根」、「かぼちゃのサラダ」や「切り干し大根の煮物」まで、炊飯器によって「手間なしクッキング」に早変わりしてしまう。これらのレシピはみな、大学時代の“とある実験”と、始まりを同じくしている。
「ロールキャベツ」は、炊飯器にベーコンと生のキャベツを敷き、その上に肉だねをのせてお湯で溶いたコンソメスープのもとをかけ、炊き込みご飯モードで炊くだけだ。キャベツをゆでたり、包んだりする手間もかからない。
「“フレンチ出身のシェフなのに、炊飯器を使ったレシピを書くのか”と思われるかもしれませんが、便利な調理家電は、私にとっては“武器”。炊飯器や電子レンジを使えば、その分コンロが1つ空くから、もう1品作れるし、ほかの家事をしたり、休んでいることだってできる。“こうしなければならない”“これがルール”といった、変なこだわりをなくしたかったんです」
※女性セブン2020年1月30日号