異分野を融合させたものは、すでに歴史上にはいくつもある。その代表例は飛行機と船を合わせた「飛行艇」であろう。滑走路が不要で、波が高くなければ幅広く着水が可能。コンセプトだけを見れば、こんな便利な飛行機はないのだが、現実は軍用機や救難機、観光フライトなど、ごく限られた用途で使われているのみ。理由は、船に求められるものを飛行機に加えると、飛行特性が著しく悪化し、燃費も悪くなるからだ。
同様に、ヘリコプターも決して輸送、戦闘の主役ではない。空中で静止するホバリングを安定させる機体形状にする必要があるのだが、その形が前進するときは決して理想の形状ではなく、やはり空気抵抗の面では不利。結果、燃費が悪くなるからだ。
それでもヘリコプターは、空を飛ぶことに特化しているという点でまだいい。地上を走るクルマとヘリコプターを融合させた場合、地上走行と空中飛行の両立による技術上の矛盾は格段に大きいものになるだろう。
「何も、空飛ぶクルマの将来性を全否定するつもりはありません。交通が二次元から三次元になれば、それはすごいことですから。しかし、マルチコプターであれ何であれ、垂直離着時のダウンウォッシュ(下方向への気流)はすさまじいものですから、どこでも離着陸できるというわけではありません。
結局ヘリポートのような場所が山のように必要になることを考えると、飛行、地上走行の両方の性能を犠牲にしてまでクルマとヘリコプターを融合させる意義は今のところ感じられませんね」(前出のエンジニア)
仮に「エアタクシー」として現実的な料金でサービスを提供するにしても、コスト面が大きな難問になるだろう。
マルチコプター方式を取る場合、ローターが1個でも止まるとバランスを保つ手段がなくなって即墜落するクアッド(4ローター)は、旅客用にせよ貨物用にせよ話にならない。最低でもヘキサ(6ローター)コプターであることはマストだ。それだけのローター、モーター、インバーターなどを装備するだけでも相当高価にならざるを得ない。ここも技術革新が求められる。