果たしてクルマが空を飛べるという夢のような時代は本当にやってくるのだろうか。
「クルマが空を飛ぶというのは、滑走路が不要な垂直離着が前提になると思いますが、ヘリコプタータイプのクルマを作ることは原理的には十分可能だと思います」
かつて富士重工業(現・スバル)でヘリコプターの回転翼や風力発電機に関わっていたエンジニアの一人はこう語り、技術的な解説を加えた。
「空を飛ぶのがメインでないのなら、上昇率(1秒間に何メートル上昇できるかを表す数値)はそれほど高い数値を求められないでしょうから、パワーウェイトレシオ(重量に対するエンジンないしモーターの出力の比)が出力1kWあたり5kgもあれば十分いけると思います。総重量2トンの場合、400kW(約540馬力)くらいですかね」
このパワーウェイトレシオの数値は、イメージとしては米テスラモーターズの高級車「モデルS」に近い。スペックだけを見れば、決して非現実的なものではないのだ。
しかし、と、そのエンジニアは続ける。
「クルマとマルチコプターをわざわざ統合させる意義が私にはわかりません。なぜなら、地上を走るクルマと空を飛ぶヘリコプターでは求められるものがまったく違うからです」
最も異なるのは空力特性だ。空気抵抗は小さければ小さいほどいいというのはどんな乗り物にも共通のことだが、その特性は乗り物によって異なる。
クルマの場合は車体を安定させるため、速度が上がれば上がるほど空気の流れによって下向きに押し付けられるような力が強まるようデザインされるのが常だが、空を飛ぶものの場合、下向きの力の発生要因は一番の害悪になる。
正面から見たときのシルエットもしかり。飛行機の多くは断面の四隅を削り、円に近い形になっている。もちろん前面投影面積を減らすためだ。
クルマを正面から見ると円とはほど遠い形だが、これにはこれで理由がある。地上を走るときには左右のタイヤの距離をできるだけ長く取ったほうが安定する。そのタイヤをボディで包んで空気抵抗を減らした形が今の乗用車の最適解だからそうなっているのだ。