藤井聡太との対局は2016年に実現した(時事通信フォト)
「升田先生がすごいのは、普通の人なら『いまはスランプでも頑張れ』と言うところを、『いまがいいんだ。いずれ空に昇る』と仰ったところです。実際にそれからわたくしは名人になり、引退までに1324勝しました。勝負師たる升田先生は、わたくしの将来を読み切ったんです」
加藤に次ぐ史上2人目の中学生棋士となった谷川浩司(57)の言葉にも含蓄がある。
〈私は常に2勝1敗を心がけ、ついに1000勝を達成した〉
「わたくしは対局前に『負ける』と思ったことはなく、『一局一局勝っていけば1000勝する』という勝負哲学でしたが、谷川さんは2勝1敗という明確な目標を立て、1000勝に到達しました。将棋界で1、2を争う負けず嫌いの谷川さんが、敗北を織り込んで目標を立てていたことには目から鱗でした」
2016年に史上最年少プロ棋士となった藤井聡太(17)は、デビュー戦でそれまでの最年少記録を持っていた加藤を破ったのち、〈加藤先生がおやつを取り出して食べたのを見て、その仕草が可愛らしいと思った〉と述べた。
「14歳の少年棋士がわたくしの仕草を『可愛らしい』と表現したことに仰天しました。デビュー戦なのにすごい余裕です」
その後、藤井は将棋界のトップ棋士との対局を前にした決意表明で、〈楽しんで指したい〉と言い放った。