30年以内に70%の確率で起こると政府が予測する首都直下地震では、一人ひとりがその危険性を知り、防災意識を持つことが求められている。起こり得るリスクを把握し、人為的な二次災害を防ぐことが重要だ。
昨年11月に超高層ビル「渋谷スクランブルスクエア」がオープンし、再開発がいよいよ本格化する渋谷区。しかし、度重なる改修工事で地下5階までホームができた渋谷駅は、頻繁に利用する乗客でさえ戸惑う複雑さだ。万が一、通勤時間に大地震が起きた場合、どんな被害が予測されるだろうか。早稲田大学理工学術院教授の長谷見雄二さんが指摘する。
「最近は地下駅やその周りに商業店舗が増えており、火災が発生する可能性は充分考えられます。変電設備などの火災もあり、停電する恐れもある。もちろん、スプリンクラーなどの対策はされていますが、消火後も煙は出るので冷静に避難しなければなりません。本当に危険なのは、人々がパニックを起こし、人が人を押し倒す『群衆雪崩』が起こることです」
兵庫県明石市の花火大会で、歩道橋に見物客が押し寄せ、11人もの人が亡くなった事故(2001年)を覚えている人も多いだろう。首都圏の主要駅で同様の騒動が起これば、被害者の数は比較にならない。
懸念事項は地上にもある。渋谷には、その名の通り深い谷底が複数存在し、渋谷駅は谷の中心に位置する。関東学院大学工学総合研究所の若松加寿江さんが解説する。
「渋谷川や宇田川の旧河道は、台地から深く掘り込まれた急斜面の谷底にあり、あまり蛇行していないという特徴があります。そのため、杉並区や中野区を流れる河川と比べて水が停滞しにくく、渋谷区内では川の沿岸に湿地や溜池はできませんでした。このため、軟弱層が堆積しているのは川の周囲100mほどしかなく、厚さもあまりありません」
つまり、渋谷区の旧河道周辺地域は、比較的地盤が良好で、揺れにも強いはずだ。ただし、台地の表面を覆う「関東ローム層」は火山灰でできているため、一度崩れると元のように締め固まらないという性質を持つ。
「斜面が多い渋谷では、建物を建てるために、土地を切り崩し、その土を盛って、地面を平らにした区域も多くあります。そういった場所は、大地震が起こると盛土の部分が崩れ落ちるリスクが高いといえます」(若松さん)
土砂崩れに巻き込まれると、盛土を押しとどめている擁壁や、建物の下敷きになる可能性がある。表面にこけなどの植物が生えていたり、水が染み出している擁壁は、擁壁の背後に地下水がたまっている証拠。崩れやすいため、地震のときは離れるようにしたい。
武蔵野学院大学特任教授の島村英紀さんは、「避難経路を把握してほしい」と話す。
「渋谷の地下街、中野や杉並のような火災の危険度が高い地域では、“逃げ道”をいかに見つけられるかが運命の分かれ道です。避難経路を把握しておけば、落ち着いて行動ができるはずです」
備えるべきは冷静さだ。
※女性セブン2020年3月26日・4月2日号