昼夜を問わず当局の動きを追いかけ、少しでも他社を出し抜こうと“特ダネ競争”ばかりに意識が向くと、事件全体を俯瞰したり、容疑者の人権に配慮したりすることができなくなることがあります。担当記者は特捜部の“従軍記者”にならざるを得ない側面があり、その中で“強欲ゴーン”という、検察側のストーリーに乗った記事を書いてしまいがちです。過去の自分も含めて反省しなければなりませんが、結果、記者が捜査当局に体よく使われてしまう。

 改めて事件報道の在り方を考えさせられました。

 話は変わりますが、ゴーン氏の逮捕当時の法務事務次官は、最近定年が延長された黒川弘務氏でした。黒川氏は菅官房長官と近いとされている人物。捜査の着手の時点で菅氏や官邸側に事前に報告があったと考えるのが自然です。ゴーン氏は事件について、官邸や政府高官の関与を口にしていますが、それが誰なのか。今後明らかになる可能性があり、注目しています。

●望月衣塑子(もちづき・いそこ)/1975年、東京都生まれ。東京・中日新聞社会部記者。官房長官会見での厳しい質問で知られる。著書に『新聞記者』など。

※週刊ポスト2020年5月1日号

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