◆バブル崩壊後は12年連続で転出超過
本社移転の調査結果を過去にさかのぼって検証すると、注目すべき傾向がある。バブル崩壊の1991年からITバブル崩壊の2002年まで、なんと12年連続で転出超過となっているのだ。
最多は1994年の328社で前年比40%の大幅増となっている。この年はバブル崩壊の後遺症が続く中、企業が投資行動を抑制し、金融機関の貸し出しも低迷。円高が加速して戦後初めて1ドル=100円を突破。消費税が5%に引き上げられ、完全失業率は3%に達していた。リーマンショック直後の2009年も前年比16%増の295社が転出している。
これまでの企業の本社移転は景況感の悪化とリンクすることが多い。景気が悪化する中で高コストの東京に本社を構えていられなくなる企業が増えることも一因か。
2020年に話を戻そう。4月の月例経済報告はリーマンショック後以来10年11か月ぶりに「悪化」の表現が使われ、「景気は急速に悪化しており、極めて厳しい状況にある」と強調した。日銀のさくらリポート(4月)も2009年1月以来11年3か月ぶりに国内の全9地域の景気判断を引き下げた。景気は明らかに下降局面を迎えている。
そうなると過去の動向からして、今年あたりから本社の地方移転が増えるのではないかとの見方をしたくなるが、専門家はどう見るか。「1都3県・本社移転企業調査」を担当した前出・瓦田氏の見立てはこうだ。
「注目しているのは足元の景況感です。最近の不動産業界の動きをみると法人、個人ともに流動性が低下して業績が悪化しています。景況感の急激な悪化で企業は守りの姿勢に入っています。
移転を計画していた企業も移転費用を手元に残しておきたいから計画を白紙に戻すといった心理が働くのではないか。コロナ感染の収束が見えない中で、攻めの経営に出られない状況です。そうしたことから今年に限れば、転出はむしろ減るのではないかと見ています」
バブル崩壊後やリーマン直後とはちょっと様相が異なる展開となるかもしれない。