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ウイルスは必ずしも悪ではない、別の感染症の防波堤となることも

「医療崩壊」を起こしたイタリアでは3万人近い死者が(写真/AFLO)

 今なお世界中で猛威をふるい、日本でも収束のめどが立たない、新型コロナウイルス。多くの人々が、新型コロナによって、未来がどのようになっていくのか、不安を抱えていることだろう。

◆ウイルスや細菌は長い時間をかけ、人間を守る存在へと変化する

 アフリカや中南米など、感染症流行地域の最前線で闘ってきた医師で、『感染症と文明──共生への道』(岩波書店)の著者、長崎大学教授の山本太郎さんは、ウイルスを「悪」と捉える人々へ一石を投じる。

「99.9%のウイルスは悪さをしません。ウイルスは自力では増殖できず、ほかの生物の細胞に自らの遺伝子を注入し、その細胞の中で遺伝子を増幅させて自己複製を繰り返す。むしろその過程で、元の生物のDNAを進化させることもあります。

 これは人間のDNAでも生じている現象で、実際、人間の胎盤を形成する遺伝子にはウイルスが関与してきたとの研究報告があります。数万年スケールで見れば、感染症は人類が進化する原動力にもなっているということです」

 細菌でも同様の変化が起こる。『パンデミック──〈病〉の文化史』(人間と歴史社)の共著者の1人である元埼玉学園大学教授の赤阪俊一さんが説明する。

「体の表面や体内に存在する『善玉菌』と呼ばれる細菌の中にも、かつては人間にとって脅威だったものがあります。長い時間をかけて共生するうちに、人間を守る性質に変異したのです」

 たとえば、腸内にはビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌があるが、これらも大昔の人間にとっては喜ばしい存在ではなかった可能性がある。こういった変化は、人々の食事や暮らしの移り変わりが影響している。

 山本さんは、「文明こそが、感染症を育む“ゆりかご”である」と語る。

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