ハラハラする展開もある『人生論 あなたは酢ダコが好きか嫌いか』
そんなお二人のめちゃくちゃ面白い往復書簡を読みながら、「ああ、私も加わりたい」と思う。でもそこまでのネタがない。しかも私はこんなに面白く書けない。悔しい。そんなふうに悶絶しながら読み進めていくと、ふと、後半に入って雲行きが変わってくる。
話は、小島さんの夫婦間の決定的な亀裂(に思える)に及びます。こんなこと書いて大丈夫なのか!? 思いもよらない展開に驚き、ハラハラ。そこでも佐藤さんは変わらぬ“佐藤節”で応え、その達観した深い人生論に打ちひしがれました。
佐藤先生のエッセイには、愚直に頑張って生きている人への目線や、そういう人から受ける大きな感動がちりばめられています。それがこの往復書簡にもたっぷりと収録されています。
〈寒風の中で掘立小屋の屋根を修繕しているホームレスの老人を見て、何ともいえない感動を覚えたことがあります…それでも、そうして一所懸命に生きているのか!〉
先生はこの一節に続き、ご自身の元夫への感情を綴り、悩み抜く小島さんに対してこう書きます。
〈いや、これは九十まで生きないとわからないことかもしれないですね。つまりこれを「涸れた」といいます〉
夫への気持ちが歳月を経て変わっていく。怨みつらみが消えてゆく。果ては、一所懸命だった自分自身をも涙ぐましく思うようになる。そうした心境は、九十になって涸れるまでは分からない──。その通りだと思います。ただ、その心境はわからなくても、意味は伝わってきます。未熟者の私にもすごく沁みました。
この本は、まさにお二人の“真剣勝負”。お手紙の途中で、小島さんは「ここまで書いたら相手を傷つけるのではないか」などと、どこまで書いたらよいか思い悩んでいらっしゃいました。私もそうでした。
しかし、あれこれ気にしないで書きたいことを書く方が、真摯さが伝わって、読んでいる人の心に響くことがある。私もいま、ようやくそう思っています。
※女性セブン2020年5月21・28日号
2人が夫婦関係や人生について手紙をやりとりした単行本『人生論 あなたは酢ダコが好きか嫌いか』が刊行