本格的な提携交渉を始めたトヨタとスズキ

業績悪化を機にトヨタとの関係強化に向かうか(左は豊田章男・トヨタ自動車社長)

◆トヨタ自動車頼みの行方

 鈴木修は、過去に経営危機が3回あったと振り返る。1950年の労働争議、75年の排ガス規制に対応するための新エンジン開発の失敗。ここまでは25年周期で大ピンチに陥った。そして2008年のリーマン・ショックである。

 今回のコロナ禍は4回目の危機。しかも、過去最大の大ピンチに陥った。1975年の排ガス規制の時にはトヨタが手を差し延べてくれたが、今度はどうだろうか。

「現時点はインドの一本足打法だが、このピンチはチャンスに変えることができる」と鈴木修は強調するが、果たしてそうか。トヨタ自動車との関係強化が復活のカギを握ることだけは間違いない。

 2019年8月28日、スズキはトヨタ自動車と資本・業務提携で合意した。トヨタが960億円出資し、スズキの株式を5%程度もつ。スズキもトヨタに480億円程度出資する。この時点で、鈴木修は次の100年を歩むパートナーとしてトヨタを選んだ。

「有給休暇は死んでから嫌というほどとれる」が口癖のワーカーホリックの修だが、年齢からいっても、これからもスズキを牽引し続けることは難しい。

 スズキは創業者の道雄から今の総帥である修まで、経営の根幹はすべてファミリーで固めてきた。2代目社長・俊三、3代目社長・實治郎は道雄の婿養子、修は俊三の婿養子。「じいさん(鈴木道雄)がいて、親父(俊三)、叔父(寛次郎)が養子に来て、僕(修)が4代目として、また養子に来た」(修自身の言葉)、スズキは婿養子経営の系譜といっていい。

 スーパーワンマンの修にとって、最大の誤算であり、それ以上に悔やまれる出来事は、後継者に事実上、内定していた娘婿、小野浩孝が急逝したことだ。2007年12月12日、取締役専務役員だった小野はすい臓がんのため、52歳の若さで逝去した。

 小野は1955年8月26日、スズキの地元、浜松市で生まれた。東北大学法学部を卒業。1979年4月、通産産業省(現・経済産業省)に入省。中小企業庁振興課長、経済産業政策局企業行動課長を歴任。将来の局長、次官候補と目されていた。

 修が小野を気に入り、直接、口説き落として娘婿にし、2001年にスズキに入社させた。経産省を去るにあたって小野は同僚に「君たちが欲しがるようなクルマをつくってみせる」と語ったという。娘婿以上の仕事ぶりを見せた小野はスズキを軽オンリーから脱皮させた「スイフト」の開発に携わった。

 修は、小野が亡くなった時の心情を著書『俺は、中小企業のおやじ』(日本経済新聞出版社)のなかで、こう記している。

〈スズキの将来を託すべき人材、後継者として期待していただけに、私の喪失感、失望感は言葉では表せないほどでした〉

 小野の早すぎる死で後継者問題は暗礁に乗り上げた。後継者難がワンマン社長を生涯現役に留まらせることになった。

 2015年、長男の鈴木俊宏を社長に任命したが、修は「次の100年をどうするか」を常に考えてきた。師匠だった米ゼネラル・モーターズの破綻、後継者として育ててきた娘婿の死、独フォルクスワーゲンとの法廷闘争――。苦難の連続だった。常に頭にあったのはスズキの行く末だ。

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