スズキの鈴木俊宏社長(左)はトヨタとの提携をどう進めていくのか

スズキの鈴木俊宏社長(左)と、父で会長の鈴木修氏

◆主力市場のインドで成長が止まった

 スズキの最大の懸念は、主力のインド市場の低迷だ。インドは世界販売台数の半分を占め、日本のそれの実に2倍だ。インドの自動車市場はコロナ感染が拡大する前から冷え切っていた。金融機関の貸し渋りや保険料の負担増で消費者の買い控えが広がっていたためだ。政府の景気刺激策も功を奏さなかった。

 感染拡大で都市封鎖(ロックダウン)される以前の2020年2月のインド市場全体の新車販売台数は31万台と16か月連続で前年実績を割り込んだ。3月下旬に始まったロックダウンで、スズキの四輪車を生産する3工場は操業を停止。販売店も休業した。

「インドでは4月の販売はゼロ。5月も1万台前後だろう。大変な危機と受け止めている」

 電話会議方式で開いた決算発表で、代表取締役会長の鈴木修は危機感を募らせた。インドの四輪車工場は5月に操業再開にこぎつけたが、今後、販売を伸ばせるかどうかは不透明。感染流行の第2波、第3波が避けられない、とみられているからだ。

 グジャラート州に建設している新工場の稼働を4月から7月に3か月先送りしていたが、新型コロナの影響で再延期を余儀なくされた。稼働時期を未定だ。新工場はインドで8番目。稼働すればインドの年間生産能力は25万台増の225万台となる。

 鈴木俊宏は「リーマン危機からの復活に日本は6年かかった」と話す。今回のコロナ禍では、医療体制が比較的整っている日本に比べ、インドはまだ感染拡大が止まっていないため、車の需要が元に戻るのは気が遠くなるほど先になるだろう。

◆インド成長の礎を築いた名物経営者

 会長の鈴木修は1930年1月30日生まれだから、今年90歳になった。1978年、48歳でスズキの4代目社長に就いて以来、42年間トップに君臨する超ワンマン経営者である。「修さんの引退こそが(100周年の)最大のセレモニー」(関係者)との声もあったが、いまだに経営の最前線をひた走る。

 修は常々、「どんな小さな市場でもいいから、ナンバーワンになって、社員に誇りを持たせたい」と語っており、その目は新興国市場に向けられていた。

 1982年3月、国民車構想のパートナーを求めて、インド政府の調査団が浜松市を訪れた。修は腕まくりして、黒板に現地に建てる工場の図面を描き、熱っぽく説明した後、「カネが要るなら大手にいけばいい。ウチは技術指導をきちんとやる」と結んだ。

「田舎者のプレゼンテーション」(修本人の弁)がインド進出の決め手となった。翌1983年からインドで生産を開始。2007年、インド政府は持っていた合弁会社の株式をすべて売却。マルチ・スズキ・インディア社はスズキの子会社となった。

 経済成長を追い風に、本格的なモータリゼーションの波が訪れたマルチ・スズキの業績は急拡大。インド国内の自動車市場におけるマルチ・ススギのシェアは5割を超えた。インド市場にしっかり根を下ろし、現地のトップ企業に上りつめたことで、スズキは名実ともにグローバル企業の仲間入りを果たしたわけだ。インド進出の大成功が、修の経営者人生の最大の勲章である。

 それを数字が示している。インド進出前の1981年の連結売上高は5000億円だった。直近のピークとなる2019年3月期には3兆8714億円。実に7.7倍になった。マルチ・スズキ様々である。

 だが、新型コロナウイルスの感染拡大で、先行きは一段と不透明となった。「小さな市場でナンバーワンになる」(鈴木修)路線は、タイ、インドネシアなどでの都市封鎖に立往生を強いられている。ウィズコロナに向けてのスズキの喫緊の課題は、主力市場インドをいかに素早く立て直すかである。

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