他にも前田がヒロイン役を演じた映画『イニシエーション・ラブ』(2015年公開)を手掛けた堤幸彦監督は、「女優・前田敦子は最終兵器。言葉じゃない、心動かされるかわいさがある」とコメント。成宮寛貴とダブル主演を務めたホラー映画『クロユリ団地』(2013年公開)を手掛けた中田秀夫監督は、「ホラーのヒロインは美しくないといけない」「恐怖表現の度合いのカンがいい」と語っている。
ちなみに芸能界きっての映画通であるライムスター宇多丸もTBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』で前田を絶賛。「変人感」のある雰囲気の持ち主だとして、「5億点の“映画的な瞬間”を叩き出す才能が間違いなく備わっている。彼女が登場しただけで、スクリーンを支配する求心力がある」と評した。
なぜ映画を愛する人間たちは、“女優・前田敦子”に惹かれるのか? 昨年公開の映画『葬式の名人』で前田を主演に抜てきした樋口尚文監督は、彼女の魅力をこのように分析する。
「かつて名匠・大島渚監督は、自分が俳優として起用したいのは『一番目が素人、二番目が歌手』であると力説していた。ここで『歌手』が挙がるのは、演技が理屈っぽくなく、感覚的で勢いがあるからだろう。気鋭の映画監督たちから前田敦子さんが重宝されるのも、まさにそこだと思う」
彼女の演技は、理屈ではない。樋口監督は続けてこう熱弁する。
「前田さんは脚本を自分にたたきこんだ後は、図太い一本線のような迫力で身を投げ出して演じてくれる。そんなふうに、演ずる人物をこまごまとした見た目の特徴で把握するのではなく、その人物の内なるエッセンスでがっちりとらえているので、つまらない小芝居がないところがいい。これは戦争のような慌ただしさだったAKBのセンターとして鍛え抜かれた成果でもあるのだろうが、それにもまして、あっちゃん本人の生き方の潔さがあらわれているのだと思う」
前田はアイドル時代から、メンバー同士でも「何を考えているかよくわからない」と言われがちな存在だった。マイペースな性格は、ときにはアンチからバッシングの的にもされたが、その“つかみどころのなさ”、どこか動物的な生き方が、女優としての魅力にもつながっているようだ。
●取材・文/原田美紗(HEW)