「私はニューカマーで、関東から10年前にやってきました。島には今も東京や関西からのお客さんが来ていますが、元から住んでいる人たち、それこそオジー、オバーと住んでいるような人たちは不安らしく、あからさまに嫌な顔をしている」(木下さん)
この離島の空港では、来島者の検温なども行われているが、熱があったり体調が悪かったとしても、来島者を押し返すわけにもいかず、島内に入れていたという。その結果…と断言できるかは不明ながらも、この島を含む複数の離島で感染者が増加の一途をたどっている。
「熱がある内地の客が空港から逃げた、なんて話を聞くことが何度かありました。本当かどうかは確かめていないけれど、それほどみんな気が立っているってことです。島内の飲食店では、東京や大阪、愛知や福岡の客はお断りと看板を出しているところもあります。そうしていないと、いろんな噂が立ちますから」(木下さん)
とはいえ、ニューカマーである木下さんは、近くに頼れる親族がいるわけでもないので、みずから商売をしていないと生活ができない。ということで、直接、電話で問い合わせや相談を受けた場合には、表向きは断っているエリアからの客であってもこっそり店内に招き、特別に準備したスペースで飲食サービスを提供している。彼と同じように、こっそり仕事をしている人は、木下さんのような新参者以外でも少なくなかった。何代も島で暮らしてきた人にとっても、もはや島外からの観光客を相手にした仕事に関わる人ばかりだからだ。
「最初は、東京の人間が島にウイルスを持ってくるって怒っている人もいたけど、あの人たちがいないとどうにもなんないって、結局みんなこっそり受け入れていたんですよ。だから、本島は今みたいになったんじゃないですか? 我々の島も隣の島も、やっぱり感染者が増え始めた。じゃあ封鎖でもするかと言えば、そうじゃない。今も客は島外から来ています。補償があるなら、まだ何とかなるかもしれませんが」(木下さん)
座して死を待つか、少しでも生き延びようと足掻くか、そんな決断を沖縄は迫られている。