クラスター発生の影響
明豊との交流試合は、2回までに3点を奪われ、強力打線も明豊の昨春の選抜ベスト4の立役者だった左腕・若杉晟汰の変化球に苦しんだ。最終回に1年春から起用し続けてきた3番・佐々木泰の高校通算41本目の本塁打が出て一矢報いたものの、試合は2対4で敗れた。
この夏唯一の“真剣勝負”に挑み、そして県岐商は敗れた
新型コロナウイルスの感染拡大によって春の選抜に続き、選手権大会が中止となり、校内のクラスター発生によって独自大会まで辞退した。コロナに翻弄された挙げ句、ようやくたどり着いた甲子園で行われた交流試合の敗因となったのもまたコロナだった。
「6月15日に休校が開け、3か月ぶりに練習を再開できた時、『これはいけるぞ』と思ったほど部員の状態が良かったんです。自粛期間とはいえ、空き地や河川敷で練習できましたから。ところが、クラスターの発生によって、交流試合が目前に迫っているのに、7月29日まで2週間、今度は外出禁止でしたから何もできなかった。そして再び練習を再開すると、『あれ?』と……」
明豊との試合中、無観客の甲子園には鍛治舎監督の怒号が響いていた。
「なんであんなクソボールを振るんだ!」
若杉の低めのボール球を振るナインに怒りをあらわにし、3点のリードを許していた8回に無死一塁のチャンスに2年生がゲッツーに倒れると、この日一番の声を張り上げた。試合後、鍛治舎監督はつい血が上ってしまった理由をこう話した。
「2年生にはまだ秋があるし、今日の試合を来春の選抜、そして来年の夏につなげてもらいたかった……。若杉君の低めのスライダーの見極めをしっかりしろ、ボール球に手を出すな、と伝えていましたが、この数か月、生きたボールを見ていなかったから、どうしても振ってしまって、淡泊な野球になってしまった。仕方ありませんし、若杉君の状態が良すぎました」
3年生だけで独自大会や交流試合に臨む学校もある中、県岐商には8人の2年生とふたりの1年生がベンチ入りしていた。
「最初で最後の甲子園ですから、チームとしてベストメンバーで臨むことが相手に対しても、頑張って開催にこぎつけてくれた大会関係者の方々に対しても大事なこと。単なる親善試合で終わりたくなかった」
この夏唯一の“真剣勝負”に挑み、そして県岐商は敗れた。改革は道半ばとはいえ、古豪復活への第一歩を鍛治舎監督と県岐商は踏み出した。