製作サイドだけではなく、韓国の国民は映画鑑賞にも熱心だ。年間鑑賞本数は1人あたり4.3本ともいわれ、日本人の約3倍。世界一映画を見る国民だといわれる。

「それだけ観客の目も肥えています。作り手は観客を喜ばせるために工夫しなければならないので、骨太な作品ができるんです」

 そう話すのは、韓国映画業界で助監督として働いている藤本信介さんだ。交換留学生として韓国に留学した後、再び渡韓して映画スタッフとなった藤本さんが、製作現場の裏側について明かす。

「韓国映画はスタッフがとにかく若い。20~30代が中心で、50代になるとほとんど現場では見かけません。韓国は上下関係がしっかりしているため、年上のスタッフだと監督が言うことを聞かなければならず、それを避ける監督が多い。15年ほど前から実力のある若い監督が出てきて、それにつれてスタッフも若返りました」(藤本さん・以下同)

 悪く言えばノウハウの少ない、経験が浅いスタッフが多いということだ。しかし韓国映画の撮影現場では、「職人」ではなく、若い情熱で新しいアイディアを生み出し、新たな挑戦を行うことが求められるという。

「つねに新しいものに目を向けるのが韓国人の特徴。機材や撮影方法、システムなど海外で新しいことをやっていれば、どんどん取り入れます」

 その姿勢は「働き方」にも表れている。日本映画では、予算の少なさから1か月程度の短い期間に詰め込んで撮影を行わなければならず、徹夜で撮影を行うことも珍しくない。しかし、予算に余裕のある韓国では、一般的な作品ならば3か月かけて撮影し、最長でも1日12時間労働が守られているという。

「延長した場合はスタッフにオーバーチャージが支払われます。単純に比較できませんが、日本は1億円以下の低予算の作品が半分以上だといいますが、韓国は逆に小さな作品は少なく、1本4億~5億円の作品が多い印象です。海外も視野に入れているので、お金をかけていい作品を作れば、国内外から回収できるという考えです」

 予算に余裕があれば時間に余裕ができる。そのおかげで監督はアイディアを練る時間が取れて、役者とのコミュニケーションも図れる。そこへ作品にかける並々ならぬ情熱が重なり、世界レベルの傑作が生み出されているのだ。

「日本は原作ものの作品が多いですが、韓国ではオリジナルが基本。脚本も『監督が書いてなんぼ』というところがある。長い時間をかけて監督がシナリオを書くので、作品への思い入れが強いんです」

 その先にあるのは、「観客を喜ばせたい」という一心だ。

※女性セブン2020年8月20・27日号

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