待ち時間に対して言及するのはもうデフォルト、検査日までの時間が長すぎると暴力的な行為に及ぶ、診察内容についても自分の思い通りになるまで怒鳴り続ける。認知症の高齢患者は、介護士に対して暴言を吐き続ける。俯瞰でその様子を見ていても、これらが想像の世界ではなく現実だと思うと怖くなってしまう。患者は文字通り、弱っているのだから手厚くして欲しいというのは分かる。
でも、医療費を支払うからといって、患者=お客様ではない。世界でも有数といわれる国民皆保険制度を介して医師に処置をしてもらうのだから、これはウィンウィンの関係では? と思う。むしろ私は医師=プロフェッショナルなのだから、その知識と技術に敬意を払いたい。
SNS炎上、自粛警察。日本人はいつからこんなことに?
そんな様子を見ていたら、新型コロナウイルスによって浮上した“自粛警察”“マスク警察”を思い出した。お盆休みで地元に帰省したら、感染者の多い東京から来たことを手紙で責められたとも。他にも、SNSでの誹謗中傷、炎上と2020年の日本は、どこを向いても怖いほどクレームに囲まれている。
日本はいつからこんなクレーマー大国になってしまったのだろうか。私が子どもの頃はここまでひどくなかった記憶があるけど、それは単に大人の世界が見えていなかっただけなのか。この理由を突き詰めていくと、壮大なことになりそうなので、ひとつだけ提言するとしたら「文句を言うのなら堂々と」である。それも病人や、顔と名前が知られていない状況を利用するのではなくて、同じ目線で堂々と……はどうだろうか。
それもキレ気味は論外。口頭で伝えるのなら『ディア・ペイシェント』に出てくるクレーマー患者のようにではなく、普通の声量と抑揚で話そう。口論はキレたほうが負けで、最終的に頭を下げるか、もしくは捨てられる人をこれまで何度か見てきた。さらに何度もキレているようであれば、信用は失う。
ここ数年では女性が避ける男性のタイプに『レストランで店員に横柄な態度を取らない人』というのがよく挙げられている。それと同じことで、人から嫌われる対象に入っていくのである。そんなことをドラマのシーンから考えてみた。
さて『ディア・ペイシェント』は現在6話まで放送され、残り4話。またいろいろな文句、揶揄が飛び交うのだろう。ドラマにはこれだけではなく、千晶に集中攻撃をしてくるモンスター患者と、母親の介護ができないという自身の葛藤も描かれている。ぜひ一度。
【プロフィール】こばやし・ひさの/静岡県浜松市出身のエッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター。これまでに企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊以上。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。