若い連中はみんなウーバーになっちゃうんじゃない?
厚生労働省がハローワークなどを通じて行った調査によれば、8月31日の時点で見込みも含めて5万人超が解雇や雇い止めとなった。9月1日の総務省の発表では完全失業者数は197万人で6ヶ月連続増、これから年末に向けてさらに倒産も失業も増えるだろう。数字に現れていない自営業者の収入減なども問題だ。「Uber Eats」のバッグ(実はこの鞄を使わなくてもいいのだが)姿は老若男女問わず増え続けるだろう。Amazonでバッグを買ってウーバーに個人情報を登録すれば、配達パートナーとして働けて、とりあえずのお金は手に入る。高齢でも、小さな子持ちでも、疾患を持っていても、ギグワーカー(単発少額の請負労働者)がどうなろうと「自己責任」がウーバー・テクノロジー社の考えだ。それが日本にも定着しようとしている。そして悲しいかな、コロナ禍と保険費用の負担増により、私見だが昨年末に行われた配達の報酬引き下げは今後もあり得ると見る。
「いろいろわかるけど、お爺ちゃん雇ってくれるとこなんてないもん、勘弁してよ」
マクドナルド、ウーバーお爺ちゃんは今日も待っている。もっと話を聞かせてもらおうと思ったが、さすがに嫌がられてしまった。ごめんなさい。
「でも俺はいいよ、そんなにあくせく稼ぐわけじゃない。若い連中は大変だ。みんなウーバーになっちゃうんじゃないの?」
将来的に日本人の大半はギグワーカーになるということか。残念ながらお爺ちゃんの予測はだいたい合っていると思う。このコロナ禍、世界の流れは変えようもないし、日本人も翻弄されてゆくしかないのだろう。もちろん私も覚悟するしかない。ちなみに「ウーバーで○十万円稼げる!」なんてサイトは信用しないように。全部ではないが零細WEB業者がアフィリエイト目的にやっている。そういう運営者のたちの悪さを私は知っている。
ともあれそんなウーバーのような働き方が存続することは致し方ないとして、一部配達員のマナー違反による道交法上の整備はもちろん、配達員が少しでも人間らしく生きられる労働条件として、さらなる安全上の補償が必要なのは当然のことだろう。ウーバーイーツの労働組合は8月13日、厚生労働省に労災保険の適用拡大を求めた。本稿で先に言及した労災問題である。ウーバーのような新しい労働の流れを止めることはできない。ならばせめて人間らしい、労働者として正しい扱いを求める。それは当たり前の権利であり、「ウーバーに落ちぶれたのは自業自得」だの「ウーバーは態度が悪いからひどい目に遭って当然」などと他人事を決め込んで嘲笑するならナチス政権下のマルティン・ニーメラー牧師の「彼らが最初共産主義者を攻撃したとき」そのままに、一般国民たる私たちの将来、老後も同じく地獄となるだろう。回り回って「しかしそのときにはすでに手遅れであった」と嘆くのはいつも一般国民である。そしてそれは私たちのことである。
ここまでルポを交えてウーバーのあらゆる問題を取り上げてきたが、これらは会社、配達員、そして客それぞれの問題というだけではない。未曾有のコロナ禍にあって、新たな労働文化に否応なく適応せざるを得ない私たち、それをどうしていくかという日本人全体の問題である。
●ひの・ひゃくそう/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。近刊『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社)寄草。近著『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。