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北斎・写楽・広重「ニッポンの浮世絵」トリビア 編集長が解説

葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏

 江戸時代に花開き親しまれた「浮世絵」は、300年以上経った令和の現在になっても、新たな発見があるのだから、おもしろい。先日、世界的にも有名な絵師・葛飾北斎の直筆とされるスケッチ100枚余りが新たに発見されたことが大きなニュースになるなど、絵師や作品におけるミステリー性も愛好家の興味をそそる。浮世絵ブームは衰えを見せない。現在も東京都美術館で開催されている「The UKIYO-E 2020 ~日本三大浮世絵コレクション」(9月22日まで)をはじめ、全国各地の美術館で浮世絵の展示が行われている。そんな背景を受けて、ウイークリーブック『週刊 ニッポンの浮世絵100』(小学館刊)が9月17日に創刊された。高橋建編集長に話を聞いてみると、「創刊にあたって専門家視点で浮世絵の名作を見直した結果、今までスポットが当たっていなかった多くの新発見があった」という。

葛飾北斎──あの「大浪」のトリビア

 葛飾北斎の代表作『冨嶽三十六景 〈神奈川沖浪裏〉』は、どうしても大きな波の方に注目が集まりがちだが、「絵の中心になっている人たち」に目を向けてみた。

「この浮世絵は、波よりも舟に乗って身をかがめている人たちに、むしろ注目したい。北斎は、この人たちの顔を簡略化して描いていますが、こんな恐ろしい波に晒されていて怯えているようにはとても見えない。むしろ“のほほん”としていて、楽しんでいるような感じにすら見えるのです」(以下、「」内の発言はすべて高橋編集長)

 実際、描かれている舟は非常に足の早い高速艇。船員がおっとりとした姿でいられるのは、自然と共生していく日本人独特の「自然感」の表れで、「たとえ今大変なことがあっても、そのうちこれも終わるだろう」という感情があったのでは、と分析する。

「どんな場合でも自然と生きていく、良いときも悪いときも自然と生きていく──日本人独特の心象が現れているのではないか、と考えます。そして、そういった心象を支えているのが、まさに奥に描かれている富士山なのです。画面の中に非常に小さく描かれているのですが、画面の中心部分にあって霊峰ともいわれる“聖なる山”。これが遠くからこの人たちを見守っている、と見ることができる」

『神奈川沖浪裏』は、つまり、波の向こうに遠くに富士山を見ているという絵ではなくて、「富士山が遠くから人々を見守ってくれている」浮世絵であるのだという。

「北斎漫画」で描きたかったもの

 北斎が一番に描きたかったのは何だろうか?──その答えは、『北斎漫画 十二編 〈風〉』という作品の女性の姿にあるのだと、高橋編集長は力説する。

「北斎はこの絵で何を描いていたかというと、実は“女性”を描いているのではなくて“風”を描いていたのです。見えない風…普通だったら描くことができない風。風に煽られている女性の姿を描くことによって、逆説的に“風”そのものの姿、そのいたずらっ気のある魅力を描いているのではないか、と考えます」

 北斎は、世界中の画家たちに非常に影響を与えていたことは良く知られている。特に、ヨーロッパの画家たちは、それまで、目に見えるものしか描いてこなかったが、この『北斎漫画』が海外に伝わることによって、西洋の画家たちも「風」「気候」「雨」といったものを描くようになっていったという。

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