友人だけでなく、九州に住む筆者の親も、電話取材に協力してくれた人々も、ほぼ全員が「すごい台風だった」と口を揃える。中には、屋根が飛び、部屋が水浸しになったという被害を受けた人、所有する車に枯れ木が倒れてきて乗れなくなった、という人もいた。幸いけが人はいなかったが、宮崎県では土砂崩れにより、今も4人の行方が分かっていない。
筆者のように外から見ていれば、また従前の報道を見ていれば、被害がほとんどないように感じる人も少なくないが、それは結果論である。しかもその「結果」は、被害を最小限に食い止めようと準備した、市民、自治体職員、警察や消防といった人々の努力の賜物であるのだ。前出の記者が続ける。
「被災地域の人々は、怖い台風で準備しておいてよかった、避難できてよかった、と仰っていました。確かに台風の勢力は想定より落ちました、それもよかった、と喜んでおられました。気象庁関係者も記者も、思いが通じたのだと喜んでいます」(気象庁担当記者)
北部九州地域にとって、夏の台風は「風物詩」でもあったことを、記しておきたい。平成初期頃の台風で近くの道路が冠水し、老人が消防団にゴムボートで救出される様子を目撃したという筆者の記憶もあるが、あまり特別な出来事ではなく、なんども目撃した光景であった。台風襲来を伝えるニュースを見れば「夏っぽいな」と今でも思う。そういった意味では、悪い意味で台風に慣れていたのである。それが、九州北部豪雨に代表される近年の豪雨被害を経験したことで、住民の間には「これまでの台風、豪雨とは違う」という認識がはっきり植えつけられているようにも思う。北部九州に住む筆者の両親や友人も、今回だけでなく避難するようになった。次第に避難が特別なことではなくなり、避難所が人で混雑するようになったほど。避難意識が高まったゆえの新たな問題ではあるが、良い傾向から生まれた前向きな課題と捉えたい。
それでも予報が外れ「大げさだ」「避難するなんて損だ」と思う人は一定数いるだろう。次に災害が起きる時、被害を受けるのはそうした人々であるということも、ぜひ覚えておいてもらいたい。