TikTokでのシェアがヒットにつながるのには理由がある(時事通信フォト)
すでに著名なミュージシャンの楽曲が人気を博すだけでなく、しばしば世間一般にはあまり名前の知られていないミュージシャンの楽曲に注目が集まり、TikTokをきっかけに“バズる”事例が相次いでいるのである。もちろん、流行の要因は複合的なものではあるものの、その一端をTikTokが担っていることは間違いないだろう。
TikTokではどのような楽曲がシェアされる傾向があるのだろうか。また、なぜ無名のミュージシャンの楽曲であるにもかかわらず、多くの人々がシェアするのだろうか。SNS事情に精通し、TikTokのトレンドを分析した『ビジネスはスマホの中にある: ショートムービー時代のSNSマーケティング』(近刊、世界文化社)の著者でもある、電通メディアイノベーションラボ主任研究員・天野彬氏は次のように解説する。
「TikTokは撮る人が自分の特技や持ちネタを面白く魅力的に披露する『どこでもショーケース』。だからこそ、そこで選ばれる音楽は【1】みんなが知ってるJ-POPやK-POPの流行曲、【2】音に動きや場面転換を合わせやすいダンス系の曲、【3】音だけで感情が刺激されるエモい曲(瑛人やラッパーのRin音など)になるわけです。また、【1】には属さない無名の曲でも、少しずつその動画を見る人が増え始めるとAIがさらに多くの人におすすめするので、人気が高まっていくというサイクルが存在するのです」
たとえ無名の楽曲だったとしても、TikTokのシステムに組み込まれたAIが同じ楽曲を多くの人々にレコメンドするため、認知度が上がり爆発的な人気につながることがあるようだ。裏を返せば、人間の趣味嗜好をAIが方向づけているということでもある。
20世紀はマスメディアがそうした役割を担っていたが、未来の流行歌はAIの“おすすめ”が決定することになるのだろうか。インターネットでは個人が自由に興味関心を広げることができるように見える一方、実際には多くの人々の趣味嗜好をテクノロジカルに画一化するためのツールとなってしまっているのかもしれない。
●取材・文/細田成嗣(HEW)