「俺がいちばん野球が好きだ!」
教えを受けたのはグラウンドの中だけではない。彼らは野球も凄いが、お酒の量も凄かった。
遠征に行けば、試合が終わると連れだって夜の街に繰り出す。格安の居酒屋を見つけ、そこで野球談義をしながら意識がなくなるまで飲み続ける。「僕もよく飲まされました」と渡辺は苦笑する。それでも翌日、二日酔いで脂汗をかきながら朝一番の試合でホームラン。「凄いわ」と唸るしかなかった。まるで漫画のような光景だった。
「“飲み”は、いろんなことを教えてもらえるコミュニケーションの場でした」と言う。渡辺の心に響いたのは、泥酔しながら「この中で俺がいちばん野球が好きだ!」「いや、俺だ!!」と本気で言い合う先輩たちの姿。
「30歳を過ぎたおっさんたちが、そうやってケンカしてるんです。カッコいいなぁ。俺もこんなふうになりたいなぁ。いつもそう思っていました」
ちょっと気恥ずかしくて「野球が好きです」と素直に言えない年代の頃。野球に対して真っ直ぐで、その「野球が好き」という気持ちをグラウンドでも日常でも体現している彼らの姿に憧れすら抱いた。
社会人チーム、三菱ふそう川崎時代の渡辺選手(時事通信フォト)
のちにプロでベテランと呼ばれる年齢になった時、渡辺もよく若い選手を食事に誘った。どこの世界にも世代間のギャップはある。「言ってもムダだよ」と距離を置くベテランが増えてきた時代に、渡辺は若い選手と向き合い、ときに「お前は間違ってる」と厳しい言葉をぶつけることも多かったという。そこには、「あの人たちならこう言ったはずだ」となぞらえている先輩たちの姿があった。