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楽天・渡辺直人 松坂世代「最後まで残った野手」の流儀

活動自粛でリコール対応に追われる日々

 そんな先輩たちに引っ張られ入社1年目のシーズン(2003年)、都市対抗に優勝し、野球人生で初めての「日本一」を経験した渡辺。しかし翌年、まさに天国から地獄に突き落とされる。

 池井戸潤の小説『空飛ぶタイヤ』の原案にもなった三菱自動車の「リコール隠し事件」と呼ばれる一連の不祥事により、チームは都市対抗への出場を辞退。活動自粛が決まる。部員たちは野球をやる場所を失っただけでなく、会社の一員として、リコール対応に追われる全国の販社(契約販売会社)応援に駆り出される。

 渡辺が派遣されたのは愛知県の販売会社。毎日、朝8時前からオーバーオールの作業着を着て現場に立った。工具を持ってトラックの下に潜り込み点検作業を行う。梅雨明けから夏場に向かう蒸し暑い季節。走行してきたばかりのトラックの下は、火傷するほどの熱を持っている。10分もすると、汗と泥にまみれた。夜、仕事を終えた時には、ドブネズミのように全身真っ黒だった。

 選手たちには練習メニューが渡され、渡辺もグローブとバットは持ってきていた。しかし疲れ果てて、宿泊先のホテルに帰って夕食を取るとすぐにベットで横になる毎日。野球どころではなかった。

 休日の日、気晴らしで入ったパチンコ店のテレビで、たまたま都市対抗の試合が放送されていた。スタンドの華やかな応援風景や時折アップで映し出される選手の表情を見るうちに、パチンコはそっちのけで画面に釘付けになった。絶望している暇はない。「来年、ここに出たい」としみじみ思った。

 このとき、初めて触れ合った販売会社の社員たちの優しさ。「野球なんてやってる場合か」と罵倒されても仕方ない立場なのに、「大変だな」と温かい言葉を掛けてくれ、仕事に慣れずなかなかテキパキと動けない渡辺にも、丁重に手順を教えてくれた。

 彼らの「来年、都市対抗に出たら、みんなで東京ドームに応援に行くからな」という言葉が大きなモチベーションになっていた。野球選手としては苦しい時間だったが、会社の看板を背負い、応援してくれる社員に支えられて野球が出来ているということを実感できた時間でもあった。

 翌年、「リバイバル(復活)」をスローガンに掲げ活動を再開した三菱ふそうは、都市対抗出場を果たし見事優勝。2年ぶりの日本一となる。

 決勝戦の試合後の優勝監督インタビュー。お立ち台に上がった垣野多鶴監督が、スタンドを埋めた応援の社員に向かい、「野球部はひと足先にリバイバルを果たしました。次は社員の皆さんと一緒にリバイバルを果たしたい」と力強く言うと、スタンドから大歓声が沸き上がった。

 渡辺は感動で鳥肌が立ったのを今も覚えている。

「こんなドラマチックなことが起こるのか、と。優勝、辞退、優勝って、あまりにも濃い3年間でした。そこに自分がいられたことは、野球人としてだけでなく、社会人として、人間としても、すごく成長出来た時間でした」

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