ペロシ下院議長は怒り心頭(AFP=時事)
さて、トランプ氏の心身状態も心配だが、アメリカに暮らす筆者としては、トランプ氏が「キレた」ことで本格的なコロナ対策が選挙後に先送りされた影響も気になる。支援を期待していた国民の多くは落胆し、怒っている。貧困層にとっては、キッチンから貴重な食料が消えたような衝撃である。アメリカでは、この8月に廃業した人が85万人もいる。これは例年の同時期に比べて6割増しの数字だ。
筆者の行きつけレストランの経営者N氏は、「店の営業はようやく許可されたが、25%しか客を入れてはいけないと決まっている。これでは店をやるだけ赤字になる。人件費も出ない。悪いジョークだ。大統領殿は、救済策は選挙後だというが、本当に薬のせいで頭がおかしくなってしまったのではないか」と吐き捨てる。
N氏に、選挙までの3週間にどれだけの支援が必要かと問うと、しばらく考えてから「少なくとも3000ドル(約32万円)」と答えた。切実な金額なのだろう。
トランプ氏の暴走でバイデン氏の支持率は上がっているが、筆者から見ると、同氏も庶民の窮状はまるでわかっていない。リンカーン大統領が、「人民の人民による人民のための政治を地上から決して絶滅させないために、我々はここで固く決意する」と演説したペンシルベニア州ゲティスバーグを訪れたバイデン氏は、そこで民主党左派同士の対立をやめるよう訴えた。リンカーン演説との落差が際立っただけだ。要するにバイデン氏は敵失に浮かれて、国民の苦しみにはout-of-touch(無知・無関心・音信不通)なのである。
リベラルを掲げながら国民を見ない挑戦者と、「強いアメリカ」を標榜しながらステロイドを投与してバルコニーに立つ現職が争う大統領選挙は、もはや世界のリーダーを決める戦いには値しない。