検討に自信があるとき、「人気馬の【7】、複勝オッズは当然低い。1000円じゃな。ここは5000円くらい? いやいや大枚でも。間違いなく3着以内にはくる」などと気持ちを弾ませる。だが間違いは起こるもので、【7】が凡走してしばし呼吸を忘れ、メンタルは乱降下する。複勝1000円、ワイド300円と決めていれば諦めもつく。思惑どおり【7】が入っても「5000円にしとけばよかった」などと決して思わない。レースごとに後悔していては、次の検討にも悪影響だろう。
このKK、しばらくやってみたのだが、なかなか良い。的中して気持ちが膨らんでも、外れてもヤケにならず、投入金額をいじらない。
投入金額を固定する目的じゃない。焦らない方策である。事前検討で「このレースは【4】が軸!」と定めた自信アリのレースなら、たとえば前述の投入金額の3倍と先に決めておく。パドック、返し馬を見てOKならば行く。やや怪しいのならいつもどおり。かなり怪しければ見送る。決して腰を浮かさない。後悔回避=決して腰を浮かさない、である。どっちもKKだ。
以前にも、阿佐田哲也さんの金言を引いて、「ギャンブルはフォームが大事」と書いているけれど、それはすなわちKKのフォームなのである。焦ったせいで見誤る。競馬に限ったことじゃない。
【プロフィール】
すどう・やすたか/1999年、小説新潮長編新人賞を受賞して作家デビュー。調教助手を主人公にした『リボンステークス』の他、アメリカンフットボール、相撲、マラソンなど主にスポーツ小説を中心に発表してきた。「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆。
※週刊ポスト2020年10月16・23日号