AIによる描画技術の発達には利点も多い。ヤフー、電通デジタル、パーティー3社による指名手配被疑者の写真からAIで今の姿を予測するプロジェクト「TEHAI(てはい)」では、手配当時より年をとった現在の予測画像が掲載されている(時事通信フォト)
確かに、アイドル側は名誉毀損で訴えており、著作権などの侵害については報道でも触れられていない。とはいえ、それはAIが描き出したとはいえ実際の人間の顔を基にしているので、イラストとまったく同じという製作者の解釈はかなり強引だろう。ただ、AIが作り出したもののどこからがモデルとは別の成果物とみなすのかについては、これから解釈が定まってゆく事柄であるため、判断が先送りされているだけだ。現状、捜査関係者は「法が追いつかない」と嘆くばかりだ。
「今回、初めてディープフェイクを摘発しましたが、罪状だけ見ても、ディープフェイクを撲滅するための本質的な捜査が行われたとは言い難い。さらに、逮捕された3人は、外部からは見られない特殊なコミュニティでやり取りをしていたとも考えられ、かつ中心人物とも見られています。ただ、一番の大物とみられる製作者については、その足取りを追えていません」(捜査関係者)
前出のディープフェイク製作者が続ける。
「名誉毀損も著作権侵害も、映像が外に出たからダメなだけで、個人で楽しむ分にはバレないからいいでしょう。需要はあるから、クローズドなコミュニティでは、誰々の顔でディープフェイクを作って欲しい、みたいなオーダーがたくさん飛び交っていますし、仮想通貨を使って金銭の授受も行われている」(ディープフェイク製作者)
クローズドなコミュニティだから作ってやり取りしても大丈夫、ということにはならないと思われるのだが……。そこに「被害者がいる」ということをわからないか、意図的に無視しているのか、彼らのスタンスは到底世の中に受け入れられるものではない。
別にアダルトだから、というわけではないが、需要がある限り、どんなに摘発しても地下に潜るだけ、というのが製作者の見方であり、現状を見る限り、そうなってゆくのだろう。また、筆者の調べによれば、専門知識がなければ作成不可能だったディープフェイクは、すでにフリーソフトなどで、素人でも簡単に作られるようになりつつある。そして、より本物っぽく見せる技術も向上するばかりだ。
「偽物とわかってみているだけ」「被害者はいない」と軽い気持ちで製作したり閲覧する人々は、現実に被害者はいるという事実と向き合うべきだ。AIが描き出すためのモデルにしているのは現実に存在する人間であり、どこにも存在しない架空の人物ではない。AI技術によって、今のような生成物が可能になることを現在の法律は想定していなかった。今後は傷つく被害者を減らすために法の整備はもちろん、インターネットの利便性を享受する人すべてが良識ある利用を続けることが必須だ。でなければ、自由で新技術を楽しめたネット空間に、どんどん規制がかけられる。大多数の人々の自由が奪われない未来のために、必要なことだろう。