もうひとつは黒川弘務・元東京高検検事長の失脚だ。黒川氏は菅氏とのパイプが太く、検察に睨みを利かせたい菅氏が留任を望んで定年延長が画策された。しかし、学者グループの立憲デモクラシーの会が「法の支配を揺るがす」と声明を出すと、ツイッターで疑問の声が広がり、黒川氏は辞任に追い込まれた。同会の呼びかけ人の歴史学者も日本学術会議の会員への任命を拒否された。
まるで“江戸の仇を長崎で討つ”ような人事だが、菅氏サイドに“標的”にされた学者は政府批判派とは限らない。ノーベル賞学者の山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所所長もその1人だ。
昨年8月、首相側近の和泉洋人・首相補佐官と大坪寛子・厚労省審議官が京都で山中氏に面会し、iPS細胞研究に対する国の“支援打ち切り”の可能性を通告した。山中氏は会見を開いてこれに反発し、その後、和泉氏と大坪氏がこの京都出張や海外出張で“不倫旅行”を行なっていた疑惑が報じられて与党は支援継続を決めたものの、当時官房長官だった菅氏は2人の山中氏への対応について「問題があったとは聞いていない」と不問にしたうえ、首相に就任すると和泉氏を「健康・医療に関する成長戦略並びに科学技術イノベーション政策」担当の首相補佐官に再任して重用している。
※週刊ポスト2020年10月30日号