トミー・ジョン手術は復帰が前提
また、山崎とはケースが違うが、故障が指名順位に影響を与えそうな選手は他にもいる。2016年選抜甲子園の優勝投手で、右前腕肉離れで秋のシーズンを棒に振った東洋大学の村上頌樹投手。また、3月に右肘クリーニング手術を受け復活途上の秋のリーグ戦で156kmを記録した亜大の平内龍太投手。いずれも山崎同様、万全であれば1位指名が有力視されていた投手たちだ。
そして、ドラフトまで1週間となった10月19日、プロ志望届を提出し指名を待っていた慶大・佐藤宏樹投手が、直前にトミー・ジョン手術を行っていたことが判明した。プロ志望の意思は変わらず、ドラフトで指名があれば、たとえ育成であってもプロ入りするという。
こうした流れを、プロ側は意外と冷静に受け止めている。
まず、これまでドラフトの指名選手というのは、高校生は将来性、大学・社会人は即戦力という枠組みがあった。しかし近年、これが変化してきている。
特に投手については、大学・社会人出身であっても、1年目から一軍でフルに働いて結果を残す本物の“即戦力”は、実際にはなかなかいない。今年でいえば、森下暢仁(広島)くらい。むしろ、1~2年かけて体力面や技術面で厚みをつけてから一軍の戦力になっている選手が多い。もちろんそこには、故障を完治させ、身体を万全な状態にするという時間も含まれる。
逆に言えば、大学・社会人出身でも、それだけ待ってもらえる時代なのだ。それ加えて、肘などの故障は、10年前20年前に比べるとはるかに治癒率、修復率が高くなっている。昔はトミー・ジョン手術の後、一軍登板を果たしたら「奇跡の復活」と言われたものだが、今はもう、復帰することが前提の手術になっている。
アマ野球の関係者からは「最近の選手たちは、メスを入れる(手術をする)ことへ抵抗が少なくなっている」という話を聞く。たしかに今は、SNSを見ればトミー・ジョン手術を経て復活したダルビッシュ有などから直接情報が入ってくるのだから、それも頷ける。
それはまた、プロ側も手術をした選手を指名することへの不安が昔ほどなくなっている、ということにもなる。手術後、完治に至らない段階の選手の指名も増えている。
「それで評価が下がって下位指名で獲れたら、契約金も安くすみますから、こちらとしては助かる面もある。1年や2年遊ばせておいても、5年後に2桁勝ってくれるんだったら元は取れますから」と、ある球団の関係者は本音を口にしていた。
さて、各球団は、ガラスのエースを何位で指名しようとしているのだろう?
●やざき・りょういち/1966年山梨県生まれ。出版社勤務を経てスポーツライターに。細かなリサーチと“現場主義”でこれまで数多くのスポーツノンフィクション作品を発表。著書に『元・巨人』(ザ・マサダ)、『松坂世代』(河出書房新社)、『遊撃手論』(PHP研究所)、『PL学園最強世代 あるキャッチャーの人生を追って』(講談社)、近著に『松坂世代、それから』(インプレス)がある。